知らなきゃ損する新築マンションの瑕疵担保責任


私は法律の専門家では無いので詳しい解説はできませんが、お金を無駄にしない為に是非知っておいて頂きたい売主の瑕疵担保責任(逆に言えば買主の権利)について簡単にご説明します。
※細かな裏技や法の抜け道に関しては法律の専門家にご相談ください。

あるマンションの1回目の大規模修繕の為に私が調査したところ、本来であれば未だ修繕項目ではないはずの箇所に多くの問題があることが分かりました。
詳しく調べてみたところ、元施工が悪く、その時のミスにより起きていた問題と判明しました。
これは明確に施工ミスと断定できる為、本来なら「瑕疵」なので購入後直ぐに売主さんにお金を出して直してもらいたいところです。しかし専門的な知識がなく何が瑕疵なのか判断できない管理組合さんの場合はそのまま放置されしてしまい、私共専門家が呼ばれた時にはその期限(※1)を過ぎてしまっているので請求できないという流れになります。
結果的に、有効期限を知らずに見過ごしてしまうと1回目の大規模修繕で皆様が自腹で直す事になります。つまり明らかな売主の瑕疵なのに買主が自腹で直すという流れになるという事です。
これは本当なら皆様が負担しなくても良いはずの<無駄な出費>ですので是非避けていただきたいと思います。
本記事は、そうならないように瑕疵担保責任に関して最低限の知識をつけていただく為に書かせていただきます。 

※1 隠れた瑕疵と認定されれば20年まで延長されます。

一口に瑕疵担保責任と言っても実は種類があります。
民法に規定されているものが基本ですが、それだけでは実用上の問題がある為、更に2つ以上の別の法律で補強されています。本記事ではその中の品確法宅建業法により強化された瑕疵担保責任を説明します。
※これ以外の法律(例えば消費者契約法など)の詳細に関して私は詳しくは分かりませんので、あらゆる可能性まで検討されたい方は法律の専門家にお問い合わせいただきますようお願いいたします。

本記事の対象者は、これから新築マンションを購入予定の方新築マンションの引渡しから2年未満の方ですが、新築マンションの引渡しから10年を経過していない管理組合さんにも参考にしていただける部分がございます。
本記事を読んで2年目までにしておくべき事10年目までにしておくべき事をお考えいただき無駄な負担を避ける為の参考にしていただければ幸いです。

※以下に参考の為法文を掲載しますが、法令関係の文章を読むと眠くなってしまう方は法文は読まずに私の解説だけをお読みください。青の枠で囲っている部分が法文になります。 私自身も法令集を調べていると良く眠くなります。文字から睡眠導入剤でも出てるのかというくらい眠くなります。 子供のころから国語とか古典とかが苦手なので眠くなるのかもしれません。もう少し分かりやすい現代風の文章になるといいのですが・・・

民法の瑕疵担保責任

民法

(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条 
売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。

(瑕疵担保責任についての特約の制限)
第五百七十条  
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

WIKIBOOKS

民法の規定はあくまで契約を解除するか、受けた損害を賠償してもらうかの2つしか選べません。
これまでに、事前に売主とよく話し合い、合意に達した上で、受けた損害を賠償する代わりに修繕費の一部を負担という形で処理された事例がございました。 
また2つ目の選択肢である契約の解除はマンションを手放す事なのでここでは割愛します。
いずれにしても、裁判で争って損害賠償を勝ち取るような方法を除くと、ここでの結果は売主の対応に依存しますので、すべての組合で同じ結果を勝ち取れるという保証はありません。私は上記の実例以外でのこの件に関する民法の適用例を知りませんので民法での瑕疵担保責任の追及を売主に請求する事を検討される場合は、法律の専門家にご相談ください。

民法による瑕疵担保責任は
契約の解除 または 賠償請求のみ可能
このブログでの守備範囲外とさせていただきます。

本件で民法はベースとなる法律ですのでご紹介だけしておきました。
この記事でお伝えしたいのは以下の2つの民法を補強している法律です。
という事でここからが本編になります。

宅建業法の瑕疵担保責任

宅地建物取引業法

(瑕疵担保責任についての特約の制限)
第四十条  
宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百七十条において準用する同法第五百六十六条第三項 に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条 に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
 前項の規定に反する特約は、無効とする。

WIKIBOOKS

この法文を読むと日本語の怖さや難解さが良く分かるのではないでしょうか。
ぱっと見た感じで受ける印象と実際の意味は真逆になっているのです。
まず、この第四十条の第一項に書かれている
「その目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き」
という除外規定が少し曲者です。
第二項では買い主に不利となる特約を禁止していますが、第一項では例外として買い主に不利となる特約を1つだけ認めているという事です。

訳が分からないと思った方は以下をまずご理解ください。

民法第五百六十六条第三項では
「買主が事実を知った時から一年以内」つまり原則は事実を知ったのが引渡しから3年目であっても、5年目であっても、その日から1年間瑕疵担保責任を問えるというのが規定されています。
ここで「目的物の引渡しの日から二年」とする特約を結ぶことが認められているわけですので、それを結ばれると引渡しから3年目に発見した場合は既にこの法律における効力は切れていることになります。

ぱっと見では1年が2年に延びて得しているように見えますが
「発見してから1年」← 引渡しから3年、5年経過しても有効
「引渡しから2年」 ← 引渡しから2年(※2)経過した時には既に無効
両者をよく見て比べると3年目でも有効となる「発見してから1年」のほうが買主としては得なのです。
ですので大半のケースではは、売主が契約書を作りますので、買主に不利なほうが契約書に書かれていると思われます。 つまり新築マンションを購入した場合は、引渡しから2年以上(※2)を経過すれば宅地建物取引業法による瑕疵担保責任は切れるというのが常態化しているわけです。

※2 個々のマンションで実際どうなっているかは契約書の記載内容で決まりますので、売買契約書をご確認ください。
2年未満の特約は違法なので無効になります。

ですので多くの場合はそのマンションの最後の新築住戸購入者の引渡しから2年経過したところでアフターサービス無料工事(アフターサービスとして無料で瑕疵を補修する工事を売主がお金を出して行う)が実施されることが多いと思います。
ここまでお読みいただければ
アフターサービスの無料工事が何故あのタイミングで行われているのかお分かりいただけると思います。 無料と呼んでいますが、実は法律で決められた義務を完了する儀式のようなものであり売主はこの工事をもって宅建業法上の瑕疵担保責任から解放されるというカラクリです。
ただしこの後に説明する品確法という別の法律で「構造の欠陥」と「雨漏り」だけは引渡しから10年(隠れた瑕疵は20年)の保証期間ですので、一部の瑕疵は2年目を超えても10年目までは買主に是正要求できます。

ここで宅建業法の瑕疵担保責任で重要なのは、
瑕疵と呼べるものは” 全て “この段階で” 無料で補修 “してもらえるという事です。 
繰り返しますが、品確法では「構造の欠陥」と「雨漏り」だけに限定されますので、それ以外はこの法律の保証終了のタイミングまでに全て発見して補修してもらわないと損をすることになります。

ただ、一般的には、アフターサービスの終了前は皆さんはご自身が所有されている住戸の専有部分の問題(壁紙のめくれ、キッチンなど住設の不具合など)の対応に追われてしまい、共用部分まで確認できないという管理組合さんが多く、共用部の瑕疵を見逃したまま放置されるという事が多いように思います。 大規模修繕で無駄なお金を使わなくて良いように、この時期までに共用部分の問題点をご確認のうえ1つでも多くの問題を除去してください。 

また、きちんと補修しない業者さんや噓の説明でごまかす施工者さんも居ますので管理組合で仕切れない場合はお近くの一級建築士を雇って瑕疵の調査や工事内容の妥当性に関する確認をさせると、12年目前後で行われる大規模修繕で無駄に増えてしまう項目を減らすことができますので修繕費用がより少なくて済み、結果的には大きくお得です。

正式名称:宅地建物取引業法
通称:宅建業法
宅建業法による瑕疵担保責任は
有効期限: 引渡しから2年~(契約書に記載の期間になりますのでご確認ください)
2年より短い特約は無効になります。無効になった場合は事実上「引渡しから2年」ではなくなるので「発見してから1年」となり買主に有利になります。 
今時そんな契約上のミスをする売主さんは居られないと思いますが、念のため。
特徴:全ての瑕疵が対象
限定条件は定義されていませんので、瑕疵と判断できるものは全て対象です。

品確法の瑕疵担保責任

住宅の品質確保の促進等に関する法律
(平成十一年六月二十三日法律第八十一号)

(住宅の新築工事の請負人の瑕疵担保責任の特例)
第九十四条  
住宅を新築する建設工事の請負契約(以下「住宅新築請負契約」という。)においては、請負人は、注文者に引き渡した時から十年間、住宅のうち構造耐力上主要な部分又は雨水の浸入を防止する部分として政令で定めるもの(次条において「住宅の構造耐力上主要な部分等」という。)の瑕疵(構造耐力又は雨水の浸入に影響のないものを除く。次条において同じ。)について、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第六百三十四条第一項 及び第二項 前段に規定する担保の責任を負う。

(新築住宅の売主の瑕疵担保責任の特例)
第九十五条  
新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時(当該新築住宅が住宅新築請負契約に基づき請負人から当該売主に引き渡されたものである場合にあっては、その引渡しの時)から十年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵について、民法第五百七十条 において準用する同法第五百六十六条第一項 並びに同法第六百三十四条第一項 及び第二項 前段に規定する担保の責任を負う。この場合において、同条第一項 及び第二項 前段中「注文者」とあるのは「買主」と、同条第一項 中「請負人」とあるのは「売主」とする。
 前項の規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とする。
 第一項の場合における民法第五百六十六条第三項 の規定の適用については、同項 中「前二項」とあるのは「住宅の品質確保の促進等に関する法律第九十五条第一項」と、「又は」とあるのは「、瑕疵修補又は」とする。

e-Govウェブサイト

最後に私たちのテリトリーの法律、品確法です。
この法律が非常に素敵なのは瑕疵担保責任を殆ど争うことなく勝ち取れる(買い手に非常に有利な)点です。 実は売主新築の際瑕疵担保責任の賠償に関する保険に入るか、または法務局に保証金の供託として所定の金額を10年間預けるかを選ばないといけない事になっています。つまり売主が好む好まざるに関係なく瑕疵が見つかれば保証に必要なお金が確保されているので買主は保証を受けることができます。この点は民法とは大きく違うと言えます。
ただし現在の品確法での瑕疵担保責任の対象は構造の欠陥雨水の侵入を防止する部位に関する2種類のみに限定されています。(※3a)
この限定が非常に特殊なので、よく「ザル法」だとか揶揄されますが、私は素晴らしい法律だと思います。 この法律ができてからというもの私が細かな事まで言わなくても施工者の方々が常に構造の欠陥と雨漏りに関してだけは何重にも確認しミスが無い様に注意して施工してくださるようになりました。ゼネコンの所長さんから小さな工務店の職人さんまで皆さん重視しておられます。マンションの大規模修繕で至る所に施工ミスが見つかるような物件でも雨仕舞だけは完璧だったりするので、その度に「品確法のおかげだな」と思ったりします。 昔は何の制限もなくて手抜きする業者は構造も防水も関係なく無茶苦茶な施工をする方が多かったのですが、今はそんなことしてると保証金が返ってこないか保険の掛け金が倍増するので、悪徳業者さんの撲滅にも役立っていると感じます。 まあそれ以外の部分は相変わらずな業者さんも居られますが、全面的に厳しくするのではなく、2つに絞り込んだのがここまで効果的に構造と雨漏り関連の手抜き工事が減少した理由だと私は思います。
という事で、引渡しから10年目まではこの法律によって買主は売主に是正を要求できますので構造の欠陥と雨漏りに関する問題はこの期間内に確実に直してもらってください。そうすれば大規模修繕の時に予算を他の事に使えますのでより良い修繕が実施できます。

また20年まで延長可能な「隠れた瑕疵」に関しては鉄筋を図面の記載より減らして施工している、杭が打たれていないなどの悪質な手抜き工事の場合や普段の生活では目にすることが無い場所での瑕疵はその調査報告書と共に認定できますが、通常の施工ミスによる瑕疵はなかなか認定できないと考えております。(この場合も10年目まで有効な通常の「瑕疵」としては認定できますが20年保証される「隠れた瑕疵」とすることに問題があるのです) と言いますのも、10年以上経過している時点で見つかった問題を何とか隠れた瑕疵として売主に経済的な負担をお願いしたいという理由で管理組合さんから隠れた瑕疵としての認定を求められますが、正直なところ10年以上経過している時点では「経年劣化」か「瑕疵」かの区別も微妙な時もあり、明らかな違法性でも無い限り、私共も易々と「隠れた瑕疵」ですは勿論、単に「瑕疵」ですとも言えないのです。 
ですので、どうか10年目まで待たずに、出来る限り早い時期に(見つけ次第)「瑕疵」として売主さんに直してもらうようにご準備ください。早ければ経年劣化という言い訳で売主さんに逃げられることもありません。

正式名称:住宅の品質確保の促進等に関する法律
通称:品確法
品確法による瑕疵担保責任は
有効期限: 引渡しから10年隠れた瑕疵20年
特徴1: 保証のための資金が確保されている
特徴2: ただし対象が 構造欠陥 と 雨水の侵入を防止する部位 のみに限定される (※3b)

※3 ab共通 ここで言う「構造」とは建物を力学的に安定させている部材を示します。「雨水の侵入を防止する部位」とは文字通りの作用をする部分全てなので屋根だけではなく壁や窓やその間の部材全てを含みます。つまり実際は、かなりの範囲をカバーします。ですので限定はされますが、文字から受ける印象よりは広い範囲をカバーしています。

まとめ

建築士のブログなのに、ここまでは建物の話を一切せずにお金のことばかり記事として書いてきましたが、私達が最大限お力になる為には必要な工事予算を100%としたらせめて80%は確保して頂かないとやりくりできないので、結果として何か大きな項目をあきらめていただかなくてはならなくなります。 他の建物では起きない事ですが、マンションの場合は、修繕費の設定が低すぎて総工費の50%以下しか貯まってない組合さんも存在しますので、私達がお力になる範囲も極度に限定されたりして「予算さえ確保されていれば、出来たのに・・・」と悲しい思いでいっぱいになります。 このような状況に置かれておられる場合は修繕費を見直していただくのが最重要ですが、今の時代、値上げは月に千円でも反対する方も多いと聞きますので、まずは本記事に記載のように法律を最大限利用していただければ売主の責任で元施工の問題は直していただけますので是非そのようになさってください。 勿論、出来ましたらお近くの一級建築士を早い段階で探していただき、2年目と10年目の期限までに元施工の不良(要是正)箇所を全て割り出してもらってください。 私達なら見ただけで分かる問題が、現実には10年以上誰にも指摘されることなく放置されている事が多く、それらを区分所有者の皆様が自分のお金を出して直したり、お金がないのであきらめてそのまま我慢してこの先何十年も暮らしていかれる姿を見るのは非常につらい事ですので宜しくお願いいたします。 

現状を少しでも良くするためにも、こうした情報は一人でも多くのマンション購入者の方々に知っていただき、法的に保証されている権利を十分にご活用の上マンションを運用していただきたいと思っています。