【ケーススタディ】(仮設)自転車置き場トラブル

ケーススタディに関して
今回はネガティブ情報を含むので事実は最小限にしています。
ストーリー仕立てでご覧いただく為に色々な設定を加えていますが大半をフィクションで構成しています。
つまり数字や人物の構成などの設定は全て架空のもので実在するマンションのものではありません。
よって実話ではありませんが、私がお仕事を通じて問題だと感じたことや是非知っていただきたい事を伝える為に書きます。
現実に皆さんのマンションで起きたら?とご想像の上お読みください。
今回お伝えしたいポイントは
「子育て世帯のマンション自治への無関心」を改善したい
という事ですので、その点にご注目の上お読みいただければ幸いです。

本日の設定

これは大規模修繕の時の仮設自転車置き場の話ですが、通常の自転車置き場の代わりという意味ではなく、自転車置き場に置ききれなくて仕方なく各階で各戸の玄関前に置かれている2台目、3台目の自転車を工事中廊下にそのままにして頂く訳にはいかないのでそれらの自転車を一時的に置く為の仮設自転車置き場に関して議論を進めていただいた時のお話です。

今回の設定(架空のマンションです)
分譲戸数100戸都市型マンション
敷地に余裕が無く仮設置き場を作る為には駐車場を一部閉鎖する必要あり
子育て世帯が 全戸数の約4割 そしてこの世帯の自転車保有台数は平均3.5台
既存駐輪場 各戸1台ずつの計100台分で実情は大きく不足(しかも増設する余地なし)

慢性的な駐輪場不足と各家庭の自転車所有台数

まず本題の前置きとしてマンションで起きている1つの問題からご紹介します。
それは自転車置き場が全く足りていないという問題です。
便利の良い立地で若い子育て世帯の間で人気のマンションという事もあり、全体の4割が子育て世帯という割合です。 そして、その子育て世帯の平均自転車保有台数が3.5台と、非常に多い状態なのですが、マンション敷地内に計画されている駐輪場は各戸1台分で計100台分のみ、
結果的に置ききれない自転車がエレベータに乗せられて各フロアの廊下の片隅にちらほらと置かれているという状態でした。
自転車置き場問題

私が調査しただけで廊下に置かれている自転車の台数は合計で100台以上にのぼり、マンション内でのトラブルの種となっていました。
そんな中で起きた問題です。

修繕委員会で起きたこと

1回目の大規模修繕に向けて着々と詳細が決定されていく中、色々な反対意見が出たりして中々決まらない議題もある中で、仮設現場用トイレ、仮設植木置き場、仮設自転車置き場(仮設駐輪場)などをどうするかという議題となりました。
修繕委員は皆さん男性で70代から80代の方々が5名、40代の方が2名の計7名でした。
皆さんで議論される中、集会所のトイレは貸したくないという方や、バルコニーでの植木いじりが趣味の委員さんが居られたので、仮設の現場用トイレ仮設植木置き場はすぐに設置が決まりました。
でも仮設の自転車置き場は修繕委員の方々全員が反対されて設置しない方向で話が進みました。

実は修繕委員の皆さんは以前から廊下の自転車に怒りを感じながら生活されていたらしく、廊下に置かれている自転車に対して

規約違反だから自転車を2台以上所有する場合は住戸前に置くのは禁止して自費で近隣に駐輪場を借りるように

という議案を何度も理事会に提出しておられたのですが、理事会は輪番なので毎回若い方も含まれている為、強い反対意見が出てその都度却下されるという流れが繰り返されてきたという経緯がありました。
そして今回は修繕委員会での議題で仮設駐輪場を許可するかどうかという事になり “チャンス到来” とばかりに仮設自転車置き場を作らない事を決定されたのです。

この組合さんの場合は修繕委員会の決定をオブザーバーとして参加している理事長さんが承認し、そのまま理事会で通過させるという方式を採用されていたので、(理事長さんが交代する次の年までは)修繕委員会で決まれば殆ど議論なく理事会で通過する流れとなっていました。

そんな中、私が自分の調査結果を元に

廊下にある自転車の総数は100台を超えています。
中には玄関前に4台置かれていたお宅もありました。
仮設自転車置き場を無しにされると、これを工事期間中毎日、家の中に入れて生活するという事になりますので、再度検討いただけませんか?

と念のための確認を行いました。
でも委員の方はだれも自転車をお持ちではなく、理事長さんが唯一バイクを所有されているだけでしたので

無駄なものにお金は出さない。
規約違反者のサポートは行わない。

という事で仮設自転車置き場なしで工事をすることが決まり工事がスタートしました。
多分クレームが出るだろうなぁと心配でしたが修繕委員会を通過し理事会での決定事項となったのでそのまま見守る事にしました。

しかし

驚くことに工事中は誰からもクレームが出ることなく
皆さんが2台~4台の自転車を住戸内に入れて不便な生活を黙って我慢してくださる状態となったのです。

その時は不思議で仕方ありませんでしたが、工事中によく顔を合わせることになり仲良くなった子育て世帯のご夫婦に工事終了後に伺ってみたら

もう大変でしたよ!
玄関に置くには台数が多すぎて通れなくなるから、結局ホームセンターでロールのシートを買ってきて、それを家の中の廊下からリビングまで敷いて毎日その上を通過させながら出し入れしました。
マンションの共用廊下に自転車置くのは私も違反と思いますが、自分達はアルコープ内に自転車を置いてるから規約違反ではないと考えてます。でも、それでも規約違反だと言う方も居られると聞いてますので今回は何も言わずに従いました。皆さん良い方ばかりでこのマンションは気に入っているのでトラブルになって住みにくくなるのは避けたいですので、そのようにしました。

との事でした。
子育て世帯の方々の殆どは総会に出ていただけないので、それ以外の約40世帯の皆様と工事後に顔を合わす機会が無く、この方々がどうだったのかは伺えませんでしたが、皆さん「規約違反かも」という認識でおられるというのは事前に聞いておりましたので、工事中は黙って我慢して暮らすという選択肢を選ばれたのかな?と思いました。

工事に伴う廊下への自転車や植栽の撤去期間は可能な限り短くなるように現場監督さんと調整しましたが、工事期間が長くなりがちな大規模修繕だけに、考えさせられる結果でした。

マンション特有の問題として感じた2つの事

ここで、私が思う事は2つあります。
1つは、管理規約に違反する問題であればサポートしてもらえないのは当然という事
共同住宅である以上ルールを守って生活しないとカオス化してしまい、最後には住んでいられなくなるので、当然のご判断だと思いました。
そして
もう1つは真逆の事ですが、
一部が確実に規約違反だという事だけを理由に(違反ではない人達も含め)半数近くの世帯で明らかに不便な生活となると分かっていながら管理組合でサポートをしないという事の是非です。

立場の違いでどちらが正しいと感じるかは分かれるかもしれませんが、第三者として拝見した私は、協力し合う事や歩み寄ることがもう少しできたほうが気持ちよく住めるのに・・と強く感じました。 常に多数派に属するとは限らないし、時には少数派になる事も出てくるでしょうから明日は我が身となる事だけに普段から譲り合う仕組みが無いと悪い方向に流れて住みにくいマンションになってしまうのでは?と心配になりました。
ストレスの多い今の日本ではそのはけ口として近い人を攻撃する方も増えてきていますが、自分が楽しく暮らすためにも気持ちよく譲り合う精神が必要なのではないかと思います。 共同住宅に暮らすという人生を選ばれたからには同じマンションの方々とは何かの縁でつながっているのですから、昔の日本人のように譲り合う部分が今後増えてくるといいなぁと思います。 そういう私も若い頃はあまり周りの方々の事まで考える余裕もなく生きていました。 そんな中、デザインの修行のために渡米して10年間アメリカで暮らしてみて、日本では考えられないほどの多様な民族が同じ場所で生きていくという事を経験しようやく分かったことです。 そして譲り合うというのは同時に自分の権利も正しく守る事を周りの人に認めてもらう事でもあります。GIVE and TAKE の精神です。GIVE(与える)と同時にTAKE(勝ち取る)事も大切です。 与えてばかりで自分は損ばかりするというのではなく、自分の権利や主張を通す為に相手の権利や主張も受け入れるという事で共同住宅というライフスタイルを成立させていただきたいのです。 

ここで是非皆様にお考えいただきたいのは、

修繕委員になった方がまず議題として採用されてから議題の大小や内容により理事会や総会で可決される訳ですが、修繕委員会で否決されれば理事会や総会には議題として出ませんので、選択肢として存在しなくなります。 つまり、皆様から頂いた素晴らしいアイデアもそれを享受できる立場の方が修繕委員会に一人も居られなければ表に出ることなく否決されて消えてしまいます。

という事です。
現在の修繕委員会の仕組みは私達が可能な限り情報公開してガラス張りにしようとしても、それを阻む仕組みが存在するので大切な意見を闇に葬らない為には、様々な立場の方々がその場に出席して内容を確認し、必要なら同じ立場の方々に伝えるという役割を果たしていただきたいのです。

ですので極力バランスの良い内容にするためにも若い区分所有者さんも参加していただく事が大切と思います。
おひとりで参加するのが不安ならお友達とチームを組むなりして修繕委員会に参加していただければと思います。
※ただし、管理組合さんごとに決められる修繕委員会の設置基準や委員の資格要件・選出基準・選出方法などによっては望んでも委員になれないことがあります。 日本のマンションの場合、管理規約が全ての諸悪の根源ですがこの件はまた別の機会があれば書きます。
※今回のケーススタディでは若い子育て世帯の権利が侵される内容なので若い方の参加を主に書いていますが、これ以外にも、女性、単身者、高齢者、病を持つ方など、マンションにお住いの全てのグループから偏ることなく理事や委員が選出されることが理想ですし、規模が小さなマンションなら理事や委員になった方々がそれらの方をサポートする事が大切です。 他人の為ではなく、ご自身の為です。出ていく方が増えたりして空室が増えるようなことになり、月々の支払いが滞るようになれば、困るのは残された方々という事になるからです。 皆にとって住みやすいマンションこそが長く生き残るマンションだと私は思うのです。 大規模修繕で出来るのはその一部である建物の健康状態を維持するお手伝いですので、他の部分が崩壊してしまえば建物が如何にピチピチ元気でも別の寿命により歴史を閉じることになります。

また管理規約を守ることの是非は別の機会があれば書きますが、管理規約違反であれそれを判断し決定する人達に該当者が多く含まれれば当然仮設自転車置き場は作られていただろうと思います。実は自転車置き場以外にもバルコニーの物置の問題とか規約違反案件は幾つか出てきましたが、全て管理組合でサポートすることが決定しました。理由は修繕委員の中に違反している方々が多くおられたからです。

それぞれの立場で意見を述べ話し合う事の大切さ

立場が違えば賛成の方も居られれば、反対の方も居られるのがマンションです。
だからこそ、様々な立場(年齢・性別・居住階・その他)の方々が偏ることなく議論に参加して頂かないと全体の満足が得られる大規模修繕にならないので一人でも多くの方々にご自身の意見を述べる場を提供できる仕組みが必要だと思った次第です。

マンションの管理規約や修繕委員会・理事会・総会での決め事は、憲法や日本の法律とは違い、非常に局部的な場所で、限られた方々の為だけに存在する事ですので、皆さんが満足される内容で既存法規に抵触しない内容であれば何でも構わない訳です。 つまりそこに住む皆様が満足される結果なら世間一般の解釈と違っていてもそれで良いと言えます。 それだけにそこに住む皆様全員にもう少し興味を持っていただいて、ご自身の権利を守ったり、より良い結果を勝ち取れるように他のグループと交渉したりという事がもう少し活発になればと願っています。 人前で自分の意見を言う事を抑制されるような教育が長年行われてきた為、私の年代やそれよりも上の方々は特にサイレントマジョリティーになりやすい傾向がありますが、マンションでの暮らしをより良いものにする為に一人一人の意見が必要なのです。

私自身は自分の仕事を通じてマンションの皆様を拝見していると数多くの「声にならない不満」というものの存在が見えてきます。 
ですので私は「クレームが出なかったから今回の修繕は大成功だ」とは、とても思えないのです。
本当の意味で皆様に満足いただく為には私の仕事が多少増えることになろうとも、より多くの方から意見を頂き、幅広い範囲の議論をしたうえで判断し決定していただく事が重要と考えております。議論もせずに決定したことほど後から問題が出るものですので、徹底的に話し合い、皆様が納得されたのを確認したうえで工事を実行したいのです。 議論は何度やり直ししてもお金がかかりませんが、工事のやり直しなどはお金がかかります。 やり直すお金が無くて我慢してそのまま暮らしていく苦痛などを考えればやはり皆様の声を聞かせていただく必要があります。

新しい意思決定の仕組み

以上、上記の設定はフィクションですが、これとは別の経験からも同じように現状の修繕委員会の仕組みに問題が多く存在すると感じました。
現在私はこれらの問題を一気に解消できるであろう、従来の修繕委員会に代わる新しい仕組みというものを考案中です。
これが実現できれば、マンションの全ての方々が人目を気にすることなく自由に意見を交わせるようになると思い準備中ですが、その実現には2つ3つほど超えなくてはいけない壁があるので、その部分で思案中です。 いつか皆様に良いご報告ができるようにもう少し方法論を模索してみます。

ケーススタディに関して
これはご自身で体験するように見ていただき、よりリアルな感覚で記事を読んでいただこうという企画です。
しかし実例には良い例もあれば悪い例もある為、私が経験した本当の実例をそのまま掲載するのは良くないと考え、
本ブログでは、私の体験談の一部または殆どを現実とは内容が異なる設定に変えて完全フィクションに変更したうえで私が経験しているという語り口調でご紹介します。
現実に皆さんの身に起きているとお考えの上、お読みいただくのが狙いですので、
良い例と思われるものは是非取り入れていただき、悪い例の場合は同じことが起きた場合、ご自身のマンションではどのように対処すべきかお考えいただく機会となれば幸いです。