知らない間に違法マンションになる件

何故違法になるのか?

関係者全員が知識不足という事が多い業界

これだけ行く先々で違法マンションに出会うのには訳があります。
マンションの場合は工事に関わる人全て(管理会社又はコンサルタント・工事業者・管理組合)に十分な知識が無いというケースが多いので知らない間に違法建築物となる上に誰も責任を取らないという事態が起きます。
ここで問題なのが後に発覚した時に被害を受けるのは区分所有者さんたちだけで、その当時関わった業者は一切責任を取らないという流れになりやすい点です。
原則としてマンションを法令に即した健全な状態で維持管理することが所有者(マンションの場合、管理組合さん)の責務となっていますので、業者を雇ってその部分の確認や適合維持の代行をさせようとお考えの場合は、その旨を業務内容として明示しておくことが大切です。
他の業界なら業者を雇えばやって当然の事であっても
マンション業界は

当然やってくれているだろう・・・

は通用しません。

口約束で事足りた昭和と違い平成は契約書による縛りが必要

まず最初に特に気になるのが
日本では業者から出された契約書にそのまま署名捺印する方が多い事です。 契約は双方の合意で行うものですので必要に応じて内容の書き変えや追記を行う事が出来るという事をまずはご理解ください。
これを機に契約書の記載内容は全て確認し、足りない条件は追記する、不当な条件は削除させる という事を習慣としていただければと思います。

大規模修繕のように大きな金額の工事の場合は特に司法書士さんなど法律の専門家に契約書を確認して頂くと良いと思います。

コンサルタント業務というのは免許も経験も知識も要求されることなく誰でも名乗りを上げる事が出来ますのでその能力の差は大きな幅があります。選考や契約時にご注意頂くとともに契約書を整備する事で皆様や皆様の財産をお守りください。
その人物(又は会社)を雇う事で管理組合として期待している専門家としての能力や技量に関して全て具体的な業務内容という形でリストにして契約書に明記しておく事が大切です。
それさえ行えば、期待している事が1つ1つ業務として実施されることになりますし、そうならない場合は債務不履行を問う事が出来ます。
口約束だけで全て期待通りに対応してもらえる時代ではないので、必要な事は契約書に明記するようにご対応ください。
特に相手が契約前に「やります」と言った事は全て契約書に記載するようにしてください。

業者を雇うときは契約書の記載内容が重要

違法改造になるような工事を未然に防ぐために
具体的にはコンサルタント(コンサルタントが居ない場合は管理会社及び施工業者)との契約書に
(違法性の有無の調査及び除去)を業務として明記する事が重要です。
※管理会社にコンサルタント業務を委託する際( ← これ自体あまりお勧めしません)は、契約更新時、契約書にコンサル業務に関する詳細条件を加えるか、コンサルタント業務に関して別途条件を列記した契約書を交わすようにしてください。 それが無いと問題が出た時に工事を決定したり実施した管理会社の責任を(裁判せずに)問う事が困難となります。
※これでも適法の状態を維持する責務は管理組合(区分所有者)にありますが、契約で工事に関する法令確認と遵守を業務として業者に委託することを明記すればそれを怠った場合、業者に債務不履行を問う事ができます。 更に債務不履行の際の責任の取り方まで明記しておくと万全ですが、その内容に関しては法律の専門家にご相談ください。

※問題を起こすのは管理会社だけではありません。マンション管理士や一級建築士を雇う場合も同様に(違法性の有無の調査及び除去)を業務の1つとする旨、契約書に必ず一文入れてください。
そもそもきちんと業務を遂行する者にとってはあっても無くても影響のない1文ですが、手抜きをするつもりの業者や知識が不十分な業者にはこの1文だけでもハードルがあがります。
このような形で要求事項を契約書に列挙することでコンサルティングという実態が把握しにくい業務を実態のある業務として定義することも出来ますし、契約書を整備することを覚えていただければ悪質な業者は徐々に関りを避けるようになり去っていきます。 

申請を伴う工事であれば一級建築士がそれを代行した時点で法的な確認は全て行う事になりますが、
申請が無い工事の場合は誰もそれを自動的かつ自発的には行わないという可能性があるという点だけ覚えておいていただければと思います。
これらの事からマンションに関する工事の場合は雇うだけで自動的に「適法の範囲で工事しているだろう」と考えるのは危険ですのでご注意ください。
他の業界とは少し状況が違いますので契約署で1つ1つを定義して強制力を持たせるようにしてください。

上記の事を怠ると違法建築となった場合に業者は誰も責任を取ることなく区分所有者さんだけが被害を受けることになります。

大きな会社なので信頼していた。
まさかこんなひどい目にあわされるとは思わなかった。

・・・とならないようにご注意ください。

知らない間に違法マンションが出来る事例

以下は契約時に上記の事を怠った場合に起きてしまう違法工事の事例です。
大規模修繕で知らない間に違法建築物となるケースをいくつかご紹介します。 

A

エントランスホールの改築

エントランスホールが蒸し風呂のように暑くて耐えられないとか、狭くて暗くて古臭いからとかの理由で大規模修繕の際に一気に改築してしまおうというケースがあると思います。
この時の区分所有者さんのお考えとしては「問題を解消したい」「工事をしてより良くしたい」だと思います。あとは「その工事費がどれくらいかかるのか?」などが興味の中心となると思います。つまり、それ以外の事は業者にお任せという事になりがちです。 個人で建物丸ごと所有される場合はそれでよいかもしれませんが、管理組合の代表として何百人もの人生を支えるマンションの工事の依頼の場合はより厳しい対応が必要になります。

まずマンションに変更を加えるときには常に法律の範囲で行われなくてはなりません。
問題は誰がこれを行うかですが、雇った業者は他の誰かの責任と判断して誰も行わないという事があります。
内装や照明を変更する程度なら問題はありませんが、使わなくなった電気室や機械室とつなげて広くしたり、入り口付近を少しだけ増築して広くしたりする場合、建築基準法で認められている範囲内かどうか確認を怠ると違法マンションとなる事があります。 

このような場合に「とりあえず工事をしてしまえ」という流れにならないように、
その時に管理組合の代表を務める方々は
◆法規の確認は 誰が? どのように行い? どのような見解なのか?
という事をまずは確認することが大切です。

このように手順を理解して実行頂けば決して難しい事ではありません。
業者を使う場合、丸投げではなく、要所を1つ1つ確実に確認していただければマンションを健全な状態に維持できます。
マンション業界で欠落してしまっている事は沢山ございますが、
これらを健全な状態にする為に、
まずは皆様(区分所有者さん)に基本的な知識を得て頂き1つ1つ積み上げて健全化させていく事が重要と考えております。 一度マスターしてしまえばもはや昔には戻れないくらい大きな違いが出てくる事でしょう。

またそのような状況下では誰も皆様の安全を守ろうとしていない事が予想されますので、皆様ご自身で最低限の安全を確保する必要があります。
特に建物の平面図が変更になる場合は、その申請や許可を必要としない場合も含め、消防や役所に変更を相談・報告して、必要であれば消防に最新の状態を示した図面を提出しておくことをお勧めします。 

なぜそこまでする必要があるのか?

と疑問に思われるかもしれませんが、マンションは特殊建築物に該当し普通の戸建て住宅とは扱いが違う建物になります。つまり防災に関しても非常に厳しい規定があり、それを守っていて初めて皆様の安全が維持されますので、私は細かな変更であっても念のため報告したり相談したりしておくのです。
例えば
火事で消防士さんが駆け付けた時に入り口付近や避難経路が変更されていると避難誘導や初期消火に多大なロスとなる事もあります。それを予防するためには正しい情報を提供しておく必要があります。 法的に申請が要求されてない場合でも皆様の命が救えるかどうかに関わりますのできちんと行っておくことをお勧めします。 小さな変更だからと勝手に判断することなく、そこに住む全員の命が全て無事に救われるために管理組合の代表を務める方々は小さなミスも起こさないというご判断をお願いします。 業者は時にお金を儲ける事だけを考えている事があり、区分所有者の皆さんの安全をおろそかにする者もいます。ご自身の身を守ったり安全を最大限に維持するためにも、このような知識は専門外だからとスルーせずに頭の片隅に置いていただければと思います。全く知らない事に気づくことはできませんが、知識として断片的にでも知って頂ければ、命にかかわる問題に直面するような場合に皆様自身で何らかの気づきがあれば対処出来たり誰かに相談できたりします。
勿論、この件に関しても契約書の中に業務として一文入れて頂ければ業者は対応することになりますので安心ですが、上記のように知識が足りない方も多く働いておられますので必ず区分所有者さんの誰かがその実施状況を確認するという事もお忘れなく。 私が見てきた中では区分所有者の代表の方々は最初はじっくりと検討されたりしていますが、契約したら安心しきってしまう方が多いと感じます。 契約内容が守られているか1つ1つ確認するのも大切な責務ですので区分所有者の誰かがそれを行うようになさってください。 そして疑問が生じたらすぐに雇っている相手に説明を求めるようになさってください。 これは小さな一歩ですが時間の経過と共に大きな違いを感じてただけると思います。

これらに関して法令遵守の義務を怠らない一級建築士であれば契約書に記載なき場合でも対応して当然の事ですが、どうもマンション業界ではそうなっていない例を目にしますので、皆様が初めて雇われる際に相手がどの様な技量や心情を持ち業務に従事しているかご判断できない場合は、「やってくれるだろう」ではなく契約書に1つ1つ明記するという事で確実に処理されるようになさってください。それが平成時代には必要です。

長くなりましたので例だけ書いておきますが
その他にも

B

駐車場から建物への通路に屋根を付ける

C

バルコニー又は屋外廊下に雨除けのカバーを付ける

D

外壁を全て断熱改修する

E

ピロティーや雨がかからない通路に駐輪場やゴミ置き場を増設する

F

屋外階段を取り替える または 設置場所を移動する

などが考えられます。
(まだまだありますが、ざっと思いつくもので良くありそうなものを書いてみました。)
これらは全ての場合で違法となるのではなく、条件次第で違法となる例です。
また変更に際して申請や許可が必要な場合もございます。
全ては建築基準法と照らし合わせて判断しなくてはいけませんが、特にマンションの大規模修繕では法規チェックをしている人が誰も居ないというケースが多いのでご注意ください。

最後に

昔の日本であれば専門家を雇えば安心とか大きな会社を雇えば安心と言えましたが最近はそれが崩れてきていると強く感じます。
お客様に私達と同等の知識を得ていただく必要はございませんが、100%業者任せでは危険極まりない時代ですので最低限の基礎知識だけをご理解いただき当然のことが出来ているかを判断していただければと思います。
それだけでも状況は大きく改善されると思います。

マンションは特殊建築物と呼ばれる分類に属しており、法的にも普通の建物よりも特別なケアを要求されます。 これは老若男女沢山の方々が1つの建物の中に暮らしておられる為に、火事や地震の時にその命を全て無事に安全な場所に移動するまで建物が崩壊しない事など、普通の建物よりも厳しい基準が与えられている建物であることを示します。 その一方で他の特殊建築物に比べて数が圧倒的に多く、マンションがこの世に普及して久しい事もあり、「特殊」というより「普通」になってしまっていると感じさせられることが多いです。 つまり業者の中に「特殊」なものを取り扱っているという意識が薄れ、日々繰り返される「普通」の業務になってしまっているのです。 この状態をより健全な状態に戻すためにも皆様にも「基礎的な知識」により最低限の防衛線を設けていただきたいと思っています。 私達が本来の能力を発揮し皆様の資産の健全化や維持をサポートさせていただく為にも、より多くの皆様に基礎的な知識を持っていただきたいと思っております。 マンションのお仕事の難しさは1割や2割の区分所有者さんが詳しく理解していただいていても他の9割、8割の方々が全く理解されていない事に関しては多数決で簡単に覆されてしまう事です。 少なくとも半数以上の方々にご理解いただけないと実現しえない事の難しさ、直近の損得だけを強調してお金を引き出そうとする業者の存在など、私がこの業界で正しく働く為に細い1本のレールを敷こうとする場合、まずは凸凹になっているその土地(業界の仕組みや常識)を平らに健全化していく必要があります。 今すぐに業界が健全化するとは思っていませんし、私のブログ1つで業界が改善するとは思いませんが、少なくとも自分の関わる人達くらいは守りたいですし、自分の専門分野くらいは守り抜きたいですので、自分が楽しく仕事をさせていただく為にも、時間をかけてじっくりと基礎を整備して細くても強固なレールを敷こうと考えております。