2つの治療法 DIPとBATH
塩水浴に限らず薬浴も含めて2種類の治療法があります。
DIP ディップ(一時浴)
DIPとは一瞬だけくぐらせるという意味で継続的に漬けるBATHとは対照的な意味を持ちます。
通常、高濃度にした塩水や薬液に10秒から数分程度だけ入れて殺菌や寄生虫の駆除をして、元の飼育水に戻したり、真水に入れたりする方法です。
金魚など魚がかろうじて耐えられる濃度にまで上げる事で細菌や寄生虫は耐えられずに短時間で死滅するという原理です。
よく薬浴(=BATH)で白点虫が寄生状態や卵の時は殺せないという話がありますが、(薬品の種類や濃度によりますが)実はこのDIPなら殺せるようで幾つかの実験レポートを見たことがあります。つまりそれだけ高濃度で実施するという事です。 具体的にDIPはBATHに比べて約5倍から10倍の高濃度で行います。
高濃度塩水浴以外にもDIPの代表例としてイソジン浴というものがあります。
これも1つ間違えば即死させる治療法で、僕は大昔に手を出してしまい1回目は上手くいきましたが繰り返すうちに黒ランチュウを死なせてしまい、それ以来封印しました。
これらは普通の塩水浴の延長かのようにネット上で目にされる機会もあると思いますがDIPに属するものは全て高濃度ゆえにBATHできない訳ですので数分以内に出して行うような治療法を見たら、ここに書いているDIPに該当するものなのか?それ以外の安全なものなのかご判断の上、その先にお進みください。
※特に体重の軽い金魚に行うのは避けて下さい。
日本ではDIPとBATHの境界線があやふやなので明確に違いを判断していただける為の最低限の知識となるようにあえて詳しく書きましたが、これらは一切おすすめはしません。
BATH バス(永久浴・長時間浴)
通常、塩水浴と言えばこちらに属しますし、薬浴もその殆どがこちらに属します。
入れたまま長い時間を経過させるので金魚はその中でゆっくりと水質に適応しながら治療が出来ますし、体内の調整機能も何度も使わずに済みますので体力も温存できます。
ただし濃度が低いので効果が弱くなるため、短時間で解決する事が出来ないというのが多くのケースだと思います。
通常数日から1週間程度行う事で効果を得る治療法となります。
塩水浴の濃度
ここからはBATH、つまり一般的な塩水浴の話です。
特に決まりはないですが日本では0.5%、アメリカでは0.3%が使われることが多いように思います。金魚の命や体力を奪うことなく治療できる濃度という事でこのような濃度が採用されています。 僕のブログでは塩水浴といえば0.5%を示すことにしていますが、世の中的には0.3%から0.6%くらいを示しているようです。
色々な意見がありますがこの範囲であれば効果は殆ど同じとされていますので特に使い分けるような濃度差ではないので僕は常に0.5%を採用しています。
注意 初めて塩水浴される方へ、5%ではなく0.5%ですのでご注意ください。
濃度は毎回変えてしまうと(前回上手くいったのに今回は失敗した・・・みたいな時に)濃度が問題だった可能性まで考えなくてはなりませんし、分からない事が多い金魚飼育で原因の特定をする時、考える事が増えてしまうのも困るので昔も今も0.5%に固定しています。
※何度か別の濃度も試しましたが、そうするメリットや意味は無いと判断しました。
0.5%に固定しているもう1つの理由はこのような実績です。
稚魚の転覆病から親魚の白点病治療まで、この濃度で安全に治療を完了できているというこれまでの実績を考えると、今さら濃度を変更して一からデータを集めるというのも無駄に思うので金魚が大きくても小さくても、病気のレベルがどうであれ、塩水浴を行う時は0.5%に固定する事にしています。
金魚飼育は未知の事が多いのでこの先何を経験するか分かりません。将来的には1%などの高濃度を試すことがあるかもしれませんが、殺菌や寄生虫の駆除と言う点ではアメリカや中国で行われている方法がより安全で効率的と感じており機会があれば多分そちらを試すと思います。
参考までに産まれたてのハリコに関しては研究があります。
Rothen et al. (2002)によると いくつもの種類の魚の稚魚を調べた結果
0.1%塩水はどの稚魚も耐えられたようです。
ただし魚の種類によっては
0.3%くらいから問題が見られたという内容でした。
ただしこの中に金魚のハリコは含まれていませんでした。
僕は生後間もないハリコに塩水浴したことが無いので分かりませんが
浮袋が出来て、全てのヒレが生えた状態の稚魚に何度も0.5%塩水浴をしていますが問題は出たことがありません。
ラクラク稚魚飼育に切り替えてからは稚魚飼育自体で問題が出ないのでこれらのデータは2世までの経験です。
参考までに書いておきますと高濃度塩水浴を行うと
小さな金魚は即死するようですが、そこそこ体重がある金魚を3%などの高濃度に晒した場合、多くは1分か2分で気を失います。アメリカの方が実験している映像ではそこで金魚を指で突いて起こすと眠りから覚めたようにまた動き始めますが、少ししたらまた気を失います。 これが何度か続くと二度と目覚めなくなる(死亡する)ようです。
塩水浴で起きる問題
濾過が無い中での治療
昔は金魚飼育と言えばコイの飼育の技術や養殖場さんの技術をそのまま流用していたので水槽の中に塩や薬を直接入れて治療するという方法が一般的でしたが、現在では欧米を中心により安全な治療法としてクアランティンタンクやホスピタルタンクと呼ばれる治療専用の水槽を準備して治療するのが当たり前になりました。
特に寄生虫なら原因となる寄生虫が、感染症なら原因菌が、発病した水槽内に潜んでいる事になるのでその中で治療するという事は寄生虫や原因菌がうじゃうじゃいる中で治療している事になり治癒率が低くなったり、最悪の場合更に悪化させることになるので、清潔な水と清潔な水槽を使って治療するという方法が主流となりました。
ここで問題なのが濾過です。 濾材の中には原因菌も多く潜んでいる為、濾過をそのまま使いまわせないので多くの場合は塩水浴中は濾過無しで治療する事になります。
この問題に対して水量を多くしたりする方法や薬品でアンモニアを無力化する方法などが良く紹介されていますが、総合的な判断から僕は別の方法を採用しています。
軽症の金魚に念のために塩水浴する時などに清潔と思う水槽の濾過器(水作エイトS)を使って新しいバケツに新しい水で塩水浴してみたことがあります。
何度か行いましたがアンモニアも亜硝酸塩もゼロのまま維持できましたので、淡水から塩水に切り替わっても濾過バクテリアは働く事が分かりました。
ただし、治療効果という点ではやはり疑問が残る結果になった事や考慮すべき項目が1つ2つ増える事から塩水浴で濾過器を使うことはやめました。
念のため、塩水でバクテリアが機能するか?疑問がある方が居られましたら、0.5%程度の塩水浴なら問題なく機能します。
※汽水や海水水槽に持ち込んだ場合の話ではありません。
アンモニアの上昇
当然ですが濾過装置が無い中で塩水浴を行うとアンモニアが上昇します。
これまでの経験で金魚の体重が約6g以上ある場合(販売されている中でも小さな金魚)、24時間で1.5mg/Lまでは許容範囲と考えています。
24時間で3.0mg/Lを超えるようなら水量を増やすなど対策を講じたほうが良いです。
粘膜の剥離
特に初日は粘膜が再生されることもありドロドロになった粘膜が溶けだしたりして魚臭いというか昔ながらの施設で販売されている金魚屋さんで良く嗅ぐような独特の匂いが出る場合もあります。あの匂いが出る時は水がかなり汚れます。
溶存酸素の低下
粘膜や分泌液で水がひどく汚れる事があり水の中に溶け込む不純物が増えると、結果として酸素の溶け込みが悪くなります。
金魚の治癒をサポートする(治癒を助ける)為に重要な酸素が減ると治療効果が下がるので対策が必要です。
雑菌の繁殖
同じく粘膜や分泌液でドロドロになった水を何日も使い続けるとそれを餌として雑菌でいっぱいになり2次的な感染症の原因になります。
餌を与えると更に全てが上昇
このような状況で餌を与えると更に水が汚れてしまい雑菌の繁殖や酸素の不足で治療効果が低くなることにつながります。
最悪の場合はアンモニア中毒などになるケースも考えられますのでこれも対応が必要です。
濃度の間違い
僕は塩水浴を0.5%に固定して行いますが、こうする事でいつもの量のようなものが出来るので濃度を計算間違いしたりしなくなります。
濃度の計算は塩水浴計算機を作りましたのでこちらをご利用いただければ簡単に出ますが、0.5を間違って5と入れたりすれば10倍の濃度になります。最初はその塩の量が多いのか少ないのかが見て気づかない可能性もあります。 ですので慣れてきておよその量を目で見て確認できる(10倍もあれば気がつく)までは濃度の間違いが無いか十分に確認してください。 (10倍は論外ですが)濃すぎると短い時間でも死なせることがあります。
特殊な問題
上記は一般的な問題ですが、稀に以下のような問題も起きます。
塩水浴に向かない金魚
◆太り過ぎの金魚
◆高齢の金魚
◆運動不足の金魚
◆ブロートやその他内臓疾患のある金魚
これらに対して塩水浴をすると溺れてしまうとか調子を崩すなどの問題が出る事があります。
特に浸透圧の調整機能が正しく機能しない金魚の場合に、入り込んでくる塩水を体外に出す、又は流入そのものを阻止する事が出来なくなると体内にどんどん塩水が侵入してしまうという問題がおきます。
このような金魚への治療には塩ではなくエプソムソルトで代用するという方法が推奨されていますが、エプソムソルトには筋肉の緊張緩和など金魚をリラックスさせて体力を回復させるなどの作用はあるものの殺菌効果などは期待できないので、塩水浴の完全な代用とはならないので目的に合わせて判断する必要があります。
塩水浴NG金魚
原因は分かりませんが塩水に入れた途端動かなくなる金魚も稀に居ます。
殆どの金魚は問題ないと思いますが、時々居るようです。
僕も昔飼育していたランチュウが多分この例に該当すると思える程塩水浴の時だけ動かなくなり水槽に戻すと普通に泳ぎ出しました。
メチレンブルー浴では同じバケツに入れて治療しても元気に泳いでいたのでバケツが怖いとかではないと思います。具体的に何かわかりませんが塩に問題があると判断しました。
飼育を始めた最初の頃は海塩を使っていたこともあるのでミネラル成分との相性とかもあるかもしれませんが、精製塩を使っても固まる金魚に関しては何が原因なのか全く分かりません。
かと言って死んだりもしませんし、その後は普通に泳いでいるのでこれがどの程度深刻な事なのか?大した問題ではない事なのか?すら分かりませんが、大切な金魚に何かあると怖いので、僕は塩水浴で動かなくなる金魚が居たらとりあえず塩水浴を中止して別の方法を模索する方向で考えています。