塩水浴の効果
殺菌
殺虫剤や殺菌成分を使わずに行われます。
原理は単純で、塩が持つ脱水作用を利用して寄生虫や細菌を脱水致死状態にすることで殺虫・殺菌を行います。
簡単に言えば梅干しやキュウリの塩もみと同じです。塩をかけておくだけで徐々に内部から水分が出てきますが、これは塩と梅やキュウリとの間の浸透圧の差で起きる現象です。これを塩水浴に置き替えると塩水が対象(寄生虫等)の中に入ろうとする力が働き、その結果対象内部の水分が外に押し出されるので脱水症状になります。一方、金魚は独立した浸透圧調整機構を持つので0.5%程度なら普通の金魚のボディは脱水症状にはなりません。
ただし濃度を濃くして行くと金魚まで脱水症状に襲われるので高濃度での塩水浴は金魚にも危険を伴う事があります。 特に小さな金魚は死ぬこともありますので体重が軽い金魚に高濃度塩水浴を行う場合は要注意です。
粘膜再生
粘膜と言うのは金魚の体を細菌や寄生虫から守る第一次防衛線です。ここが破られない限り金魚は寄生虫や細菌の攻撃をかわし健康に生活できます。 でも水質悪化などの原因でこの粘膜が薄くなったり、最悪の場合は剥がれ落ちてしまうと比較的簡単に感染症が出ます。
たとえば底で寝る金魚は常にお腹を底に付けて寝るのでその部分の粘膜が薄くなりますし、殆どの金魚はヒレの付け根の良く動く部分の粘膜が薄いです。こうした部分から寄生虫や感染症はスタートします。 赤班病のように色が変わる感染症は非常に分かりやすくこうした部分からスタートしますので機会があればよく観察してみてください。初期の赤い部分は全て粘膜が薄い部分から始まります。
このように粘膜は非常に大切なガードの役割を果たしますが、塩水は金魚がこの粘膜を再生する事を助ける働きがあります。 ですので殺菌や殺虫と同時に粘膜を修復し攻撃されにくくする為、感染症や寄生虫の問題には塩水浴が非常に効果的と言えます。
薬浴だと(すべての条件を正しく維持できるように処置しないと)どうしてもこの逆の事が起きるので下手をすれば悪化させやすいですが、塩水浴であれば初心者でも安心して治療できます。
エラの保護層の更新
寄生虫や細菌に感染した時にエラを守ろうと金魚は粘液を出してコーティングするようです。塩水には、この粘液の増産を助け粘液層の更新スピードを上げる事で付着している寄生虫や細菌を体外に排出する手助けをする働きがあるようです。
体力の回復
観賞魚薬は殺菌剤や殺虫剤の成分を含みますので金魚に対してもストレスを与えますが、0.5%程度の塩水浴ではこのストレスは殆どありません。上記のように脱水機能を使う殺菌・殺虫なので金魚にあまりストレスをかけず体力を奪わないので、結果として金魚に対しては体力の回復をサポートする事になります。
ただし塩水浴の水量には気をつけないと、極度に少ない水量で塩水浴を行うとアンモニアの値が短時間で急上昇し、そのストレスがかかります。(薬浴でも同じです)ですので、アンモニア値が急上昇しないだけの十分な水量で塩水浴を行うようにしてあげて下さい。
解毒・その他ダメージの修復
一般的に「毒抜き」と呼ばれる効果もあります。これは水槽内の酸素不足、塩素、クロラミン、アンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩等が原因で起きる中毒症状やダメージを回復させ、正常化させるという働きの事です。
ただしこの場合、明らかな中毒症状が出ている場合はドボンで塩水浴に切り替えるのは厳禁です。一般的には少なくとも1時間に10%以下の水質の変化で水を替える事が推奨されていますので、どのような方法でも構いませんがゆっくりと順応させながら水を替えてください。 他の原因で行う場合とはこの部分で大きく異なりますので、中毒と酸欠が疑われる症状の時はお気を付けください。
僕は長年、0.5%塩水浴は殆どドボンで金魚を入れて治療してきました。
しかし飼育水や真水と比べると塩水はWater Chemistryが大きく変化すると言えますので、正しくは水合わせをしてゆっくりと慣れさせる必要があると言えます。
特に小さな金魚や弱っている金魚は急激なWater Chemistryの変化に耐えられない事もあります。 ですのでより安全な治療とする為、このブログからは塩水浴も水合わせして金魚を徐々に慣れさせることを推奨していこうと思います。
僕はこれまで元気な金魚の塩水浴はドボンで実施してきましたがその理由はイソジン浴や海外の高濃度塩水浴の方法にあります。あれだけの劇薬や高濃度のDIPを行う場合は水合わせに時間をかけているとその間に死亡するのでDIPとよばれるドボンで金魚を移動しています。最初イソジン浴を見て「あれほど強い薬にドボンで対応できるなら0.5%塩水やメチレンブルーは楽勝だろう」と考えたのがきっかけでした。 実際、これまで死にかけている金魚は塩水浴でも点滴などを使って水合わせしてきましたが、それ以外の体力が残っていると判断できる金魚はドボンで問題なく対応できていました。
しかし多くの本や実験レポートを読んできた結果
Water Chemistryが変化する時は徐々に水を替える
というのが正しい方法だと十分に理解できましたので、これまで何も起きていないからと我流を続けるのは止めて、正しいとされる方法に切り替える事に決めました。
過去に飼育相談で質問いただいた方にドボンで大丈夫ですとお答えした事があるので、心苦しいですがこの点は認識不足があったと反省しこのように対応を変更させていただきます。
塩水浴で治療可能な問題
尾ぐされ病・赤班病
細菌感染症の多くに有効。
上記のような脱水致死により殺菌します。
比較的簡単かつ安全に殺菌できるので他のどの方法よりもお勧めです。
金魚が体力を失う前に行えば嘘みたいに簡単に終わります。
かなり末期状態で体力を奪われた場合も塩水浴で対応可能ですが、長期戦になる事もありますのでそのつもりで挑んでください。
早期発見・早期対応が大切です。
白点病
上記のような脱水致死により駆除します。
ただし0.5%では寄生している状態・卵の状態のものまでは殺せないとされていますので、白点虫の孵化・増殖のサイクル1期分から2期分の期間継続しないと駆除できません。
特に冬の低温時は長期戦になります。
※ヒーターを使い加温して一気に孵化させる方法がありますが、その温度上昇に金魚が適応できるかどうかがカギになります。
適応できれば早期解決できたという結果になると思いますが、適応できなければ白点虫だけ爆増していき金魚はどんどん寄生されて更に弱り最後には死んでしまうという流れもありますので無茶な加温は行わないほうが良いです。 また逆に、10℃を切る様な水温では金魚の活性が低いのでこの場合はヒーターを使用して徐々に加温し15℃から20℃位を維持して治療すると金魚の回復が早いので良いです。ただし時間をかけて温度を上げて下さい。
白点虫は一度消えたように見えても卵が潜んでいる事もありますので、確実に処理されるまで継続して下さい。
ただし100%のせん滅とならなくても金魚が元気になり粘膜が再生されるまでに回復すれば多少生き残っていても寄生されなくなります。
怖いのは1匹でも弱った金魚が居てその体を使って一気に増殖し健康な金魚まで襲われる大勢力になる事です。
ですので健康な金魚は別の場所に隔離し、弱った金魚が皆元気になるまで警戒してください。
0.5%塩水では白点虫の卵を殺せません。
つまりBATH系のトリートメントは塩水であれ観賞魚薬であれ、数日程度行っても無駄と言えます。
新規導入時は大切な金魚を守る為にも保護観察期間を設ける事をお勧めします。
アンモニア中毒・亜硝酸塩中毒・硝酸塩中毒・酸欠関連
酸欠関連と中毒関連の治療にも塩水浴は効果的です。
毒抜きや体力の回復など治癒に向けて必要なサポートが塩水浴だけで行えるので非常に安心です。
急激に水質を変えない事だけ注意して、じっくりと時間をかけて対応してあげて下さい。
※ただし明らかな中毒症状が出た場合、素人では治療が難しいので獣医さんに診てもらうほうが安心です。
アンモニア
「アンモニアに関しては塩分量が増すごとに毒性が少し下がる」と言われています。気になったので何パターンか計算してみましたがほんの少しだけ下がるという印象でした。「もうこれで安心!」という下がり方ではありません。pHが変化して毒性が増減するのは大きな変化ですが、塩による毒性の緩和は言葉通りの印象と現実は違いますのでご注意ください。
亜硝酸塩
亜硝酸塩の毒性はごく少量(亜硝酸塩に対して10%程度)の塩分で毒性を緩和できます。
硝酸塩
同様に硝酸塩の中毒も酸素の運搬能力を低下させるものですがこれも塩分濃度がゼロから上がる事で緩和されるという研究があります。
最後に
塩水浴のメリットの中で「浸透圧の調整を助ける」という項目だけが一部別の事と矛盾が出ており、調査中ですが未だ一部しか判明させられていません。
以下に現時点までに分かった事を記します。
未完成なので興味のある方だけお読みください。
体内の塩分量を正常化させる
<金魚の浸透圧調整のメカニズム> ← ようやく理解できました。
金魚の体内は水中よりも高濃度の塩分を含んでおりこの濃度を上げ下げして浸透圧バランスを維持しています。
金魚の体やエラは水をスポンジのように吸い込むような構造になっていて常に水が入り込んできます。
ただ入れっぱなしだと直ぐに風船のように膨らんでしまうので、金魚は常に尿を出すことで入ってくる水を排出しています。
つまりかなりの量の尿を出している事になりますし、腎臓への負担も非常に大きいなか毎日暮らしています。
基本的には、こうして体内の水分量を変化させることで体内の塩分濃度を調整します。
逆に体内に塩分が足りなくなるとエラにある特殊な細胞から水中に存在するごく微量の塩分をかき集めて取り込みます。(これが金魚には簡単ではない仕事となるようです。)
こんな感じの事が水中で常に起きているので腎臓はフル回転で働き、尿を出し続けているわけですがストレスがかかって腎機能が弱まると、体内に入ってきた水が排出できない事により体内の塩分濃度が低くなり金魚は体調を崩します。
この事から腎臓が壊れると体内に水が溜まり転覆病・松かさ病・ブロートなどになるのもよく理解できました。
ここまでは理解できましたが、この件と塩分濃度との関係が未だに非常に不明瞭です。
特に塩水濃度0.5%が金魚の体内とバランスするという話はブロートの金魚が塩水浴で溺れてしまう話と矛盾する事が気になっているので、塩水濃度と金魚の体内浸透圧の関連の記述を探していますがまだ見つかりません。
濃度に関係なく一つまみの塩を入れるだけでも塩分が無い淡水で金魚がエラから塩を取り込むのに助けになるという表記はありました。
日本でも昔の人は金魚が調子を崩すと塩を一つまみ入れたら治せるという事を言っておられたと聞いたことがあります。
しかし、この事は良い例ではなく悪い例として以下のような注意がされていました。
↓
専門家によると淡水魚は淡水で飼育すべきなので体調を崩した金魚の水槽に一つまみの塩を加えるのは間違った飼育法・治療法になるようです。
塩水浴などで一時的に塩分を補助的に与えるのは(慢性化しないので)良いかもしれないけど、日常的に金魚が調子悪くなるたびに水槽に塩を一つまみ加えたりすることは結果的に(長期的に見れば)腎機能やエラからの塩分摂取能力を頓化させるので次第にピュアな淡水内で自力で生きられなくなるため決して行うべきではないという見解の様です。 同様の理由で、塩水浴を定期的かつ頻繁に行うようなことは絶対に避けるべきとも指摘されてました。 塩を与えて金魚の負担を減らしてやる事は一時しのぎとしては簡単で良い方法と思うのですが、繰り返してしまうと原因を除去するどころか悪化させるので淡水魚に塩を使うという事が何を意味するか理解して使えという事のようです。 僕はこの点を全く気にしてなかったので、これを読んだ時は新鮮なショックを受けました。 昔は事あるごとに塩水浴してましたが最近では無駄に行わないように注意しています。
やり過ぎると金魚は本来の能力を失うのでご注意ください。
0.5%塩水と体内塩分濃度の関係などは今後も情報を探します。
矛盾と思っている原因、若しくは僕の誤解や認識不足の可能性など
何か新しい事が判明したらここに追記しますので
それまでこの項目は保留とさせてください。
現時点までに判明した事だけ書きました。
また全てがクリアになればこの項目は上の「塩水浴の効果」に移動します。
こんばんは。
金魚部やこちらのブログにとても助けられている者です。
最後の、塩水浴のやり過ぎが悪い例として紹介されていた、という所に非常にショックを受けました。私は、少し体調が悪い金魚や、新しく迎えた金魚にはまず塩水浴…と言うように塩水浴に頼りきっていましたので…
まさかその塩水浴が長期的に見た時に、金魚に悪影響を及ぼしているとは思いもしませんでした。
そして、毎回様々な記事を本当にありがとうございます。金魚の飼い方、となると金魚掬いで迎えた金魚の対応又はらんちゅうの育成、など中々参考にし難いものが多い中、大きな設備が無くてもできる工夫や病気に罹った時のケーススタディを載せて下さっていて、実際に真似できて参考になることが多く助かっております。
陰ながらこれからも応援させて頂きます。
長文失礼致しました。
yunさん こんばんは。
コメントありがとうございます。
僕もなにかあれば塩水浴してきたのでショックでした。
でも確かに金魚は甘やかすと弱くなるので、普段から健康的な状態を維持するためにも自力で浸透圧調整させないといけないのだと思います。
ちなみに日本では塩水浴は比較的ポピュラーと言うか容認されていると思いますが、アメリカとかイギリスは容認派とアンチが居て両者の間でバチバチ激論が交わされています。
専門家にも過激なアンチが居て「塩業界の陰謀だ」とかいう人もいます。今回の記事に書いた内容は容認派の専門家の方が塩の効果を説明する中で注意事項として挙げておられたことなので僕もやり過ぎないように注意しようと思ったのでご紹介しました。 何でも程度の問題という事があるので、時々なら大丈夫と思っています。
あたたかいお言葉感謝します。
これまで沢山の金魚を死なせてしまったので、その死を無駄にしない為にも失敗談やその経験から考えたり改善してきた予防の方法などを中心に書いて、誰かがそれを見て1匹でも多くの誰かの金魚が死なずに済めば、自分の殺してきた金魚達への供養になると思っています。 これらのうちのどれかがお役に立ったのであればとてもうれしいです。
金魚は声も出せない小さな生き物なので、僕たちがきちんと世話してやらないと死ぬまで地獄のような状況でも(声も出せないし逃げることも出来ないので)耐え抜くしか選択肢が無いでしょうから、そう思うと1つ1つ正しい知識をもって適切に世話してやらなければと思います。