そろそろ本業の建物の話も書いていこうと思います。
無理なく基本的な事を学んでいただきたいと考えておりますので、楽しみながらお読みいただけるようにクイズ形式にしました。
また今回は文字で説明しても中々難解な題材ですので、普段はタイトルの画像しか制作してませんが、より分かりやすいようにCGモデルで簡単な図を作りました。
お楽しみいただければ幸いです。
好評であればこの方向の記事も増やそうと思います。
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問題
上の図の1・2・3・4で最も危険なヒビ割れはどれでしょうか?
<各部の条件>
1は 手すり壁の上部から縦に入り床まで貫通(壁に対して垂直のひび)長さ1.5m
2は 室内に近い床のひび割れ(壁に対して平行のひび)長さ1.0m
3は 手すり壁の根元付近を横に貫くひび割れ(壁に対して平行のひび)長さ1.0m
4は 室内側から外側に向かう床のひび割れ(壁に対して垂直のひび)長さ1.0m
※全て逆側まで貫通しているとします
どうでしょうか、答えはお分かりでしょうか?
解説と答え
上図のように壁に垂直のひび割れの部分を切り取ってみると分かりやすいと思います。
このように壁に垂直な切込みが入ってもバルコニーは崩壊せず安定は維持されます。
上記の例程激しい切り込みが続く事はありませんが、実際のバルコニーでこれに似たようなデザインは良くあると思います。 これは全く問題はありません。 むしろメリットがあるので最近のマンションでは、このように切れ込みを入れています。(床には入れません。手すり壁の部分の話です。)
ただし最初から設計でこのようなデザインにしている場合は鉄筋が外に露出しないように配慮していますが、ひび割れで縦に隙間が出る場合は、その間に雨が入り込み中の鉄筋を錆びさせてしまいます。 ですのでバルコニーの構造上は怖くないひび割れでも放置すれば鉄筋がダメになる事で危険な流れとなりますので、可能な限り早期に隙間を埋めてください。
同じように該当部分を切り取ってみました。横が無くなると上と下が分かれてしまいます。 つまり、このように平行なひび割れは放置すると危険だとお分かりいただけると思います。
こちらの向きに崩壊すると最悪の場合手すり壁が折れてしまうという事です。
最も怖いのが、バルコニーの根本付近に平行なひび割れが出る事です。
この場合は最悪のケースでバルコニーの脱落が起きることもあります。
またこの手のヒビは下階への雨水の侵入路となる事も多いので発見したら早く処理することが被害を拡大しない為に大切です。
答え
という事で 正解は2です。
最も怖いのが 2
その次が 3
そして 1と4
の順になりますが、あくまで長期的に何もせずに放置していた場合の話です。
覚えておいていただきたいのは 2や3のように
壁に平行なひび割れは長期的に放置できないという事。
緊急性が高いという事です。
壁に垂直のものを放置して良いという意味ではありませんが、並行のひび割れは甘く考えず早期対応してください。
まずはこれらの事をご理解いただくのが最重要ですが
以下に、より厳密な説明をさせていただきます。
ひび割れが3次元なのでロックしあう為、意外に動かない
この青い背景のモデルだけはリアルなひび割れを再現してみましたが、他の例は分かりやすくするためにシンプルなモデルで刃物で切ったように綺麗な切り口に切り取りました。現実のひび割れというのは3次元的で海の表面のような波打った感じでコンクリートの中を走ります。つまりひびが大きく入っていてもそれが複雑な形状の為、互いにかみ合う形となり意外に動くことが無く安定している事が多いので、垂直でも平行でも、ひびが入っただけでは特に危険とは限りません。
鉄筋があるので簡単には崩壊しない
また現実にはコンクリートの中には鉄筋が入っており、この粘り強さによって守られるので、そう簡単にバルコニーが脱落したり、手すり壁が崩壊したりもしません。
目で見て恐怖を感じる太さのひび割れでも発生からしばらくは構造が不安定になるような問題も起きません。
しかし早く対応しないと以下のような問題が起きます。
本当の問題は
本当に怖いのは長期的に放置してコンクリートの中が中性化して、更に中の鉄筋を錆びさせてボロボロになった時です。
RC(鉄筋補強コンクリート)のメリットは硬くてもろいけども強大な重量に耐えるコンクリートと単独では柔らかすぎて弱い反面、粘り強さで崩壊を阻止する鉄筋とを組み合わせてお互いの弱点を補強しあう所にあります。ですので粘り強い鉄筋の特性が無くなってしまうと地震の時にコンクリートと共にもろく折れて崩壊してしまいますので、鉄筋を健全な状態に維持することが重要になります。
通常は鉄筋が危険なレベルまで錆びてくると体積が増すのでコンクリート内での内圧が高くなり最後にはコンクリートが耐えられなくなり破裂する現象(爆裂)が起きます。
そして爆裂が散見されるまで放置するとその時には既に建物全体の寿命が短くなっていますので、ひび割れが出たら早い段階でそれを埋めて中に雨風が侵入しないように守ることが大切になります。
中性化を遅らせることは中の鉄筋を守ることになり、結果として建物の寿命を延ばすことになりますので、鉄筋が錆びてしまわないように早めに補修することを重視してご対応ください。
場所や規模によっては大規模修繕まで待つ必要はございませんので短期的に対応なさってください。
赤さびが出ているのに何年も放置するというのは間違った管理ですので対策をご検討ください。
また、コンクリートの建物は、ひび割れから雨漏りになる事も多いのでこの観点からも放置せずに細やかに補修する体制を築いていただく事がマンションを長く安心して使用するのに重要になります。