今さら聞けない大規模修繕の為の「修繕委員会」の作り方

修繕委員会とは

そろそろ大規模修繕かなという時期になったら、
まず最初に
大規模修繕を「皆様の中の誰が、どのように進めるのか」を決めなくてはなりません。
つまり大規模修繕工事の1つ1つの議題を話し合い試案を作り総会での議決を支援する専門委員会を立ち上げるという事になります。
名称は各組合さんで色々と特色のある名前が付けられているようで、これまでに拝見した資料では色々な名前がありました。本ブログでは、その中でも最も多く使われていると思われる大規模修繕委員会(通称では修繕委員会)という名前を使います。
そして本記事では修繕委員会の設置とその役割と大切な注意事項に関してご説明いたします。

開始時期:何時頃から始めるべきか?

原則として最短でも準備から工事完了まで2年から3年ほどの期間を要しますので、工事希望日の最低で1年前、余裕をもって1年半前くらいから準備を始めるのが理想的です。
ですので修繕委員会の設置はその時期までに完了しておくことが大切です。 
設置が完了するまでは全てを理事会で進めていかれる場合ですと、理事会を月に1回だけ開催なら(設置基準等の検討>区分所有者に告知&委員の募集>選定プロセス>総会での通常議決で過半数の承認)を完了するまで少なくとも数回なので数か月、中には半年以上かかる管理組合さんもあるようです。 ですので選定にかかる期間をご検討の上、余裕をもって開始していただく事が大切です。(これら選定には外部業者は含みません。コンサルタントや施工業者の選定などはこの後順次行う事になります。まずはそれを実行する方々(委員さん)を選ぶという作業です。)

修繕委員の任期

任期は修繕委員会発足から大規模修繕工事終了(引渡し)までなので、最短でも2年程、マンションの規模や工事の範囲によっては更に長くなります。 理事の1年輪番が当たり前になっているマンションでは非常に負担の大きな役割と受け取られるので修繕委員のなり手が見つからないという組合さんも多いと聞きますが、マンションの将来を左右する重要な役割ですし、1回の工事だけではなく今後マンションをどのように運用していくかという道筋を立てる役でもありますので、人任せにせず是非ご参加ください。

理事会で対応可能とお考えの組合様へ

特に専門委員会は設置せず理事会で大規模修繕の各議題まで対応という管理組合さんもあるようですが、輪番制で1年で総入れ替えの場合に専門委員会を設置しないと前任者の決めたことを全否定してしまわれる事例もあり、混乱や対立が生じたりして大規模修繕工事が失敗に終わる可能性が高くなります。また最悪の場合は談合を仕組まれたり修繕積立金を横領されたりしやすくなるので、品質管理の観点だけではなくセキュリティの観点からも避けたほうが良いと思います。 またマンションの普段の議題と大規模修繕の議題を毎回話し合うとなると理事会の時間が倍増しますので、その点でも修繕委員会は別に設けて、必要に応じて理事の皆様も参加していただくのが理想的です。 と言いますのも、議題は非常に多岐にわたりますので人数が少ないと意見が偏って問題になりやすいので一人でも多くの方が議論に参加していただく事が重要です。「人数が多いとまとまりにくいから」と少人数で進めさせようとする管理会社が多いですが、それは管理会社の仕事が楽になるというだけで、議論もせずに矢継ぎ早にすべてを決めても良い結果にはなりません。 十分に議論されて皆様が納得されて初めて満足できる結果となります。
大金を使う工事に関する決定ですのでその金額に見合う時間と慎重さが必要です。
悪い業者は、その事に目がいかないように次々と決定させようとしますが、お金をどぶに捨てることにならない為にも金額に見合うだけの検討をしていただく必要がございます。

※ただし小規模マンションなどで委員になる方が居られない場合などは無理に理事会と分けずに兼任されることもあるようです。 この場合は理事会の負担が大きくなるのでその対策を独自にとる必要がございます。

修繕委員会設置のメリット

上記にほとんど書きましたがまとめますと
専門委員会(修繕委員会)の設置によるメリット
◆理事会は通常議題に集中することができる
◆数年間を専任の委員さんにより調査及び検討してもらえるので引継ぎなどによるセキュリティホールが出来ずに安心

修繕委員会の役割

時期・工事項目・工事予算の検討

主として大規模修繕の時期、工事項目、工事予算を決定及び管理していただきます。勿論、専門的な部分は私達がサポートいたします。

住民サービス・美観・利便性の検討

更に細かな項目としては住民サービスなど工事中にご不便をおかけする事で発生する苦痛を少しでも軽減するサービスや経済的な負担をどこまで管理組合でサポートするかなども決めていただきます。
私の場合ですが、「人命に関わる事」「建物の耐久性に関わる事」は必ず実施していただく方針ですので、提案してもそれが叶わないと判断した場合は幾重にも対策を講じながら最後まで説得を続けてまいります。
しかし、その一方で「美観」と「利便性」に関する部分は一切意見せず100%管理組合さんの意向に沿う形で工事を組ませていただく事を原則と考えております。
つまり
利便性に関しての例なら

工事中の住民サービスは何処まで管理組合で負担するべきか?

美観に関する例なら

何処までお金をかけて新築の時のようにピカピカにするべきか?

など、
区分所有者の皆様がどのようにされたいかというご希望を重視して決定されるべき項目は
皆さまのご希望に合わせて進めさせていただきます。
何故ならそこに暮らしていかれるのは皆さまですので、専門家が皆様の暮らし方にまで口を出すのはおかしいという考えから、私は各組合さんの意向を実現できるようにサポートに徹します。 ただし、予算の問題、アンケート結果との不整合などがある場合はきちんと皆様が納得されるまで議論していただく事もございます。
これらは工事予算を増減させる要因ですので、それを決定する修繕委員会のメンバーの皆様のお役目は非常に重要になります。
※もちろん工事予算が一般的な規模の半分しかない場合に住民サービスを満載する方針などを固めようとされた場合など <普通>と考えられる範囲から大きく隔たりが生じている場合はアドバイスしたり住民の皆様に意見を聴取したりしますが、予算規模が正常である限り<個性>と言える範囲は(それが一般的でなくとも)その決定を尊重させていただきます。 そもそも皆と同じだから大丈夫という事はありませんので、各組合さんでその特色が出るのは良い事だと考えております。

その他設置時に決めておくべき重要事項

権限の範囲

時々理事会と並んだり、理事会の権限を越えるような決定を独断で下す修繕委員会があるらしくトラブルの原因となっています。
また大規模修繕だけではなく通常の管理業務にまで口をはさみ始めることで大きな問題となった管理組合さんも存在するようですので、明確に規定する必要があります。
委員選出の前に必ず修繕委員会の権限の範囲を明確に細則で規定しておくことが重要です。

理事会との関係

また理事会と対立することもしばしばあるようですので、明確な上下関係を規定しておく必要があります。
通常、修繕委員会は理事会の業務の中で大規模修繕に関わる部分だけを専門的に調査し理事会の意思決定をサポートする諮問委員会(しもんいいんかい)という立場に設定されることが多いようです。 ですが、これもマンション管理規約に則って皆様の良いと思われる内容に決めることができ、総会の通常議決で過半数を得れば成立させられますので必要に応じてお決めください。

修繕委員会での決定事項が全て次の年の理事会で却下されてしまうなどが起きてしまい理事会との対立が起きる事もありました。
予防措置として理事長をオブザーバーとして修繕委員会に出席していただくなど対処法があるようです。ただし、1年で輪番制の場合は理事長が別の方に交代された瞬間から問題となる事もあります。

解散の時期

また大規模修繕が完了し引渡しが住んだ後も「修繕委員の○○だけど・・・」と理事会の決定や管理会社の業務に口を出す方も過去の事例では存在しますので、こちらも細則に明確に「解散」を謳っておく事が重要です。

人選の重要性

折角委員になってご尽力いただいても感謝されることなく文句を言われてしまうという事もございます。
様々な方々が一つ屋根の下に暮らす中、立場の違う人は期待することも違うために起きるマンション特有の問題です。
でもこれはちょっとした工夫で大きく改善できます。
ここで最も重要なのは修繕委員会の委員の方々の人選です。
これは工事の成否を決める非常に重要な決定になります。
本来であれば、建築士、現場監督、弁護士、会計士、マンション管理士などを職業とする方々が区分所有者さんの中に居られれば理想的なのですが、そうそう揃うとは思えませんし、普段であれば報酬を得て行う本業をマンションの為に無料(ボランティア)で行うというのは抵抗がある方も多く、更に大規模修繕工事に問題が出れば専門家としての評価が地に落ちるので今後マンションに住みにくくなるという懸念から実際は協力していただけない事が多いようです。これらの方々には無理に負担をおかけするのは避けて問題が出た時などにセカンドオピニオンを聞く為の大切な存在としておくのも良いかもしれません。無理にお願いして皆様のマンション内での関係が崩れるのはお避け頂くのが賢明だと思います。 

ただしマンションの将来的な価値を重視されるのであれば専門職の方は是非修繕委員会に参加していただきたいです。 様々な是非を問うときに専門的な判断ができる方が一人でも多いほうが結果が当然よくなりますので条件付きでも一時参加でもマンションの利益になりますので可能であれば、ご参加のほど宜しくお願い致します。

では、専門家が居られないマンションや専門家が居られても協力いただけない場合はどのように人選を行えばよいのかですが、重要なのは修繕委員の方々のバランスです。
まずは可能な限り
◆男女比率
◆年齢層
◆収入層
などが偏らないように十分配慮する事が重要になります。

さもないと折角長い任期を務めていただいても、決定にひどく偏りが出てしまうと他の区分所有者さんから不満が噴出する事になり努力が評価されないことになります。
また不満が表に出ればまだ良いのですが、分譲マンションの場合は「声にならない不満」というものが存在しますのでこのケアも含めてより多くの方々の参加が大切になります。

自由に意見が言える雰囲気作り

私が過去に経験した事から判断すると区分所有者の方々にとって多くの人がいる前で「自由に発言する」という事がとても難しいように思います。
マンションは学校や会社とは違い試験などにより選ばれた集団ではない為、集団としての共通部分が乏しい傾向にあります。つまり様々な方々が1つ屋根の下にお住いの為、育った環境や生活レベルが違う方々の間でコミュニケーションが上手くいかず、結果としてトラブルを避ける為に口を閉ざす方が増えていく傾向が見て取れます。よって意見を述べることに関しての捉え方が人によってかなりの個人差が出てしまい、周りに気をつかう方は余程のことが無い限り聞く側に徹し、常に特定の方々だけが強くご自身の意見を主張されるという傾向がでやすいと言えます。
普段の生活でそうなるのは共同住宅という暮らしでは仕方ないかもしれませんが、意見を交わすための代表となっていただいた場合は話が違ってきます。 一部の方だけが強く意見を述べられて、他の方々の意見を制止されるような威圧的な雰囲気になると折角のメンバー選びも無駄になり決定が偏ることがあります。 マンションの将来をより良いものにする為に行っていただく大規模修繕ですので、全体の利益になる方向でバランスよくそれぞれの立場の方々の意見が交わされることが理想です。 ですので話しやすい雰囲気を作る事や立場の弱い方々は多人数にしてバランスをとる等、色々な配慮をされている組合さんがあるようですが、とても良い取り組みだと思います。 この点ではマンションの管理組合さんのコミュニティ成熟度が試される最初の大きなイベントになると思います。

より具体的にお考えいただく為に

修繕委員会の設置に関して皆様に熟慮いただきたい事を書きましたが、ここだけを読んでその本当の意味や危険性までをご理解いただくのは難しいと思いますので、幾つか実例をケーススタディとして説明する為に先行して記事を書いておきましたのでよろしければご確認ください。

これらは実例を通じて皆様のマンションではどうなのか? 問題が起きたらどう対応すべきか? 予防策は何をしておくのが良いのか? などをお考えの上、修繕委員会の設置の参考にして頂ければ幸いです。 今後も何か思いつけば実例集を増やしていく方針ですが、現時点ではこの2つになります。

私達が呼ばれる時には既に決定している事ですので、その時点で問題が出ていても改善して頂く訳にもいかないデリケートな部分ですので、事前に知識を持って人選していただけますように気になった事をまとめて記事とさせていただきました。
皆様の中の一人でも多くの方が「良かった」と思っていただく為に修繕委員会の人選は非常に重要ですので、ご検討のほど宜しくお願いしたします。