【マンション長期運用への障害】 その1 マンション計画


マンションを修繕する目的としてお客様が期待されるのは「建物の資産価値を高く維持する事」や「建物を長期的に使用する事」という2つではないかと思います。
しかし修繕をするだけでこれらを実現できる訳ではなく、目的を実現するためには他の要因に関しても対応策を講じていただく事が大切ですのでそのお話から始めさせていただきます。

まずは何回かに分けていくつかの問題に関してお話させていただきたいと思います。
ここまでの日本の歴史でマンションの多くは30年~40年ほどでその寿命をむかえ建て替えられてきました。
海外では100年を超える物件も多い中なぜ日本だけがここまで低寿命で建て替えが続いているのか?を考えていく必要があると思います。

特に予測や計画で処理できない不測の事態が起きた場合、一時金を出して対応したり、銀行や公庫から融資を受けたりしなくてはいけなくなることもございますが、その金額が大きい場合に上手くいかないケースがこれまで多く発生してきました。 更に近年に計画されたマンションでは以前よりも合意に達することが難しくなっている事項が増えているとされる点に関してお話させていただきます。

デベロッパーさんの販売戦略の変化

20年前と今のマンション計画の違い

私がマンションの設計というお仕事を始めた20数年前はバブル経済の後期からバブル崩壊へと移行していく時でした。 当時は「億ション」という言葉もよく使われていたほど高価なマンションが販売されていた時期でもありましたが現在との大きな違いは販売者さんたちの販売戦略です。20年前は高級マンションと普及型マンションは区別されていて高級マンションは全室高級仕様でマンション丸ごと高価格帯での販売で、その逆に普及タイプは基本的に最上階まで普及タイプの価格帯で販売されていました。つまりマンションごとに所得が近い方々が集まって住んでおられるという状態でした。 ただしこの方法はマンションを販売するデベロッパーさんには非常にリスクが大きな販売方式となっていました。 例えば高級マンションは単価が高いお部屋ばかりなので数部屋売れ残れば赤字と言われるほどシビアで短期的に完売しないと利益を圧迫しやすいという問題がありました。しかし特定エリアに住まれる富裕層の方々の数は限られているので地域によっては苦戦を強いられる流れになりやすいこともございました。 一方で普及型は多くの方が対象になるので営業はしやすい反面、若い方などが多く含まれるためローンが下りないケースなどで完売まで苦戦するようなこともございました。 そこから20年経過した現在は上層階エリアに富裕層の方向けのゆったりプランを配置して中層階以下は普及タイプのお部屋を何通りかのプランで計画することで1棟のマンションで幅広い方々に販売できる方式へと移行し、以前に比べると格段に販売しやすくなり販売側の赤字のリスクも減ったと言えます。 

収入格差による意見の相違

このように販売者さんには非常に売りやすい形式へと進化したマンションですが長期運用を視野に入れておられる購入者にはこれが逆に問題となる傾向があります。
資産や収入が近い人達が1棟のマンションに集まって住んでおられた時代なら皆が同じ方向に合意しやすかったのですが、現在のように収入や資産に大きな幅がある人達が1棟のマンションに暮らしておられるようになると、建て替えか?修繕して継続使用か?の判断や、大金を要する決断の際に意見が2つに分かれやすくなるという問題が出てきています。
例えば築30~40年以降に計画外の大きな損傷が見つかり修繕するか建て替えるかという判断の際にも「建て替える程のお金は用意できないので修繕で対応を望む派」と「ここまで壊れたら建て替えたほうが資産価値も上がるからどうせお金を使うなら建て替える派」に分かれてしまいやすいと言えます。
もちろん建て替えのような大きな問題に関しては同じ収入層の方々でも意見は分かれがちですが、そこまででなくても配管の老朽化の問題や建物全域で雨漏りが出始めた場合でも「たとえ次々に雨漏りして不便な生活になってでもお金をセーブするためにその都度壊れた部分だけを部分的に直せばいい派」と「多少お金がかかっても一気に全面を直して安心して暮らしたい派」に分かれたりすることになると思います。 最終的には多数決で決めることが原則となりますので人数が多い中層階以下の方々の意見が通りやすい反面、上層階の方々が出ていかれてしまうと大きな収入減やスラム化の懸念もあるため近年の収入格差が大きくなる販売方式は大きな決断を迫られるときに問題を誘発しやすい状況となっています。

補足: 建て替え時の負担金に関して

昔は郊外に建てられたマンションは容積率を使い切っていないものや都会でも緩和により建設当時よりも更に大きなマンションが建てられる場合がありました。 この場合は建て替えのための費用負担なく(または非常に少額で)建て替えか実現する方法も選べるため必ずしも建て替えが各オーナー様の経済的負担にならないという例も多くございました。
現在でも時々そのような例は見られますが、今は多くのケースで容積率ギリギリで建設されている為、負担金ゼロでの建て替えという選択肢は選べなくなってしまうので、
最悪の場合
《建て替え前のマンションのローン》と
《新しく建て替えるマンションのローン》との
2重にローンを支払うことになるため、自己資金が無いと以前のように簡単に建て替えを選べない状況です。
ですので建て替えの可能性に関してご検討される場合は、購入予定のマンションや現在お住いのマンションが法定容積率を使いきる形で計画されているかどうか? もし余裕がある場合はどの程度あるかご確認ください。 この点は将来、建て替えを検討しなくてはいけなくなった時に非常に重要になります。

必要な対策

常に大きな方向において合意の形成を維持できていないと方向性がブレる度に意見の相違が起きやすくなりますので、不測の事態を幾つか想定して合意の形成をしておくことが大切です。
特に短期間に用意できる自己負担金の金額などは個人個人で大きな差があると思いますので、その金額の把握や許容範囲を超えた場合の選択肢や対応策の模索などを行っておかれることが重要です。
中でも所得格差が大きい場合や住戸数が多い場合は意見が割れやすいですので、問題が出てから対策を講じようとしても解決までに長期化する事もございますので今すぐ細かに対応できないとご判断の場合は、長期修繕計画書に余裕を持たせておくなどして多少の問題はこの中で吸収することで大きな方向性が維持できるようにしておくのも大切です。
多くのケースで現状維持さえできれば大きな問題は回避できると思います。 長期的な視野でのマンション運用は現状が維持できないようになった時に問題化しますので無理のない計画や余裕のある運用が非常に大切になります。
またご希望のマンションの想定運用期間が築後30年から40年なら現在の管理・修繕方法でも良いかもしれませんが、60年、80年という長期でお考えの場合は大金を要する機会がいずれ訪れますので、その対策が必要になります。