違法と既存不適格の違い
建築の世界では現在の法律に適合していない時に、それが許される場合と違法となる場合の2種類があります。 まずはこの2つのグループの違いに関してご説明します。
既存不適格の例
2000年当時の地域の規制に基づいて15階建て(45m)で マンション(その1)が完成したとします。
その他全ての法律に適合し確認申請を出し完了検査にも合格したとします。
この段階で、マンション(その1)は 適法マンション です。
その後
2005年に新しい規制が追加されマンション(その1)が立つ地域は31mを超える建物は建てられなくなったとします。 この瞬間から、マンション(その1)は現在の法律に適合しないので 既存不適格マンション と呼ばれます。
つまり今後、新築マンションは全て最高31mで建てられますが、マンション(その1)が建てられた時は45mが許可されていたので無理に31m以下に下げる必要はなく45mのまま使用を続けることが許されるのです。
※ただしこれは現状維持する場合に限ります。面積や高さが変化するような増改築をする場合などは(一部の適用除外のケースを除き)その部分が新しい法律に適合しない場合は違法になるので、マンションに変更を加えるような工事をする場合は気を付けないと違法になります。
法律が変わるたびにそれに適合させていたのではお金がかかって仕方がないですし、そのお金が出せない方々が全て違法建築物の所有者となるのもひどい話ですし、そんな形で法律を運用したのでは、法律の施行に反対する人が多くなり法改正や新法の制定が妨げられてしまうので、建築の分野では既存建物を新しい法律に適合させる時で、経済的負担の大きな工事を要する場合にその直前まで合法だった建物を一時的に除外するために「既存不適格」という特別枠を設けているのです。
※他にも寺社建築など現代の建築工法を使わない建物も既存不適格として扱いますがこのブログではマンションに無関係の部分は除外してお話を進めさせていただきます。
<既存不適格>マンション(その1)の大規模修繕
一言で大規模修繕と言ってもタイルや塗装や防水等の更新、増改築を伴う工事、全面改装まで幅広くあります。 この中で注意が必要なのは申請を伴う変更を加える場合の大規模修繕です。
既存不適格マンションの状態で法的に申請を伴うような変更を加える工事を行う場合は、その時点で既存不適格が適用されなくなる場合があります。 つまり変更を加える瞬間から現在の法律に適合しなくてはいけなくなりますので工事完了時には最新の法規に適合している必要があります。
つまりこの場合の選択肢としては2つです。
A
B
新しい法律に適合させられるのであればそれが最も安心ですが、この例では45mを31mまで下げるという上層階の撤去は無駄にお金がかかる工事&そこに住んでいた人をどうするのかなど新たな問題を誘発するので現実的な選択肢とはならないだろうと思います。
このような場合は(既存不適格となっている原因によりますが)多くのケースでは申請不要な内容、つまり既存不適格を合法的に維持できる範囲のみで工事を行う事になるだろうと思います。
ただしマンションの長期的利用の観点でいずれ適法処理が必要な場合は早期に対応したほうが有利な場合もございますので目先の損得だけではなく長期的な展望でご判断ください。
専門家に任せているから安心とはお考えにならないようにご注意ください。
<既存不適格>マンション(その1)の建替え
建替え(一度全て潰してから新しい建物を建てる)となると、もはや45mは維持できず新しい基準である31mに変更しなくてはいけません。 言い換えれば45mの時よりも小さなマンションになるでしょうから全員が今と同じ条件の住居を手にすることは不可能となります。
多くのケースでは
1
これまでよりも小さなマンションになる場合は、全員がそのまま新しいマンションに住めませんので
出ていく方々の権利を管理組合(残る方々)が買い取るなどして出ていく方を決める事が必要になります。
この件は過去の事例を見ても簡単には解決できない難題となります。
2
この例では、約4階分の住戸の権利を残った方々で買い取るわけですから残る方々の金銭的な負担は通常の建て替えにも増してかなり大きくなります。
※管理組合に修繕積立金が十分に残っていればそこから補助できると思います。
※日本国内での過去の事例は殆どデベロッパーが一部の販売権を得ることを条件に介入して建て替えを助けていますが、これらは建て替え促進のための規制緩和等を利用した増築が可能な例(金銭的負担が少ない又は殆ど無い)が多く、減築の例(金銭的負担が大きい)での建て替え成功事例は殆どありません。
つまり高さ制限が低く変更されて既存不適格になっているマンションは建て替えが普通のマンションよりも更に困難となるので、その時期が来ると他のマンションよりも区分所有者間での争いになりやすいとも言えます。
このようなケースに該当するマンションにお住いの方は、マンションの寿命を少しでも長くすることが最大の利益へと繋がると思いますので早い段階からマンションの長寿命化への対策を皆様で協議していただき方向性を固めておく事や区分所有者さんたちの間での合意形成を進めていかれる事をお勧めします。特に重要なのはこれまでの記事に書いていますように修繕積立金をしっかりと貯める事と貯めても安々とは使わない事の2つです。
違法の例
2000年に マンション(その2) が完成したとします。
この時、マンション(その2)は屋上にペントハウスを追加するという違法工事を行った為、法律に適合しない部分ができ 違法マンション となりました。
※とは言っても違法建築になっている事は区分所有者さんの多くは気づいておられない事が多いというのが一般的です。 何かの際に発覚し大事件となります。
その後
2005年に新しい規制が追加されマンション(その2)が立つ地域は31mを超える建物は建てられなくなりました。 この場合は最初から法律に適合していないので 既存不適格ではなく違法マンションのままとなります。
※一度違法になればそのまま違法が続く訳ではなく、この状態からでも行政の理解と協力を得て過去にさかのぼって違法部分を除去することで既存不適格を取得した例もあります。 しかし全ての建築物で適法化が実現できることを保証するものではありませんので、違法建築を安易に容認するのは危険です。
このように最初からでも途中からでも建物に変更を加える工事の完了時にその工事部分が現在の法律に適合しないと、その時点からマンション全体が違法となってしまいます。
マンション(その2)ほど大胆な違法改造をしなくても、これに似たような事が大規模修繕で起きると知らない間に違法マンションになってしまいます。
注意 EV等のペントハウスは一定の規模までは緩和されますが、
この例では緩和される規模を超えたものとします。
また違法建築物の場合原則として売買できないので資産価値はゼロと判断されることもあるようですが、違法にもピンからキリまであるので違法の程度により話は変わります。
例えば、即時取り壊しという方向で行政の指導が入るような危険なレベルから、是正命令は出るけどもそのまま住み続けられるレベルまで幅があるので、売買できない、住めない、即時取り壊しが必要などは実際の個々の例で異なりますが、マンションの場合、融資を受けたり、大きな変更の為に申請したりする際に、違法建築物では話が前に進められませんので 最初から最後まで 違法マンションにしないように善処することが大切です。
既存不適格は原則として放置してはいけない
既存不適格はあくまで経済的な負担を強いらない為の配慮であり、現行の法律とかけ離れた基準のまま住み続けるのは時に命を危険にさらす事にもなります。 特に耐震設計などが時代遅れの建物の場合は次の大きな地震で倒壊するかもしれません。 ですので各地方自治体はこれらを少しでも適法の状態にしていただく為の援助や法律の緩和特例などを設けて少しでも多くの方が前向きに適法化に向けた修繕や改築を行ってもらえるように支援しています。 ですので既存不適格部分が耐震基準など命に係わる事が原因の場合は、対策を検討して修繕費の値上げなど必要な準備を行い早期の実現を目指してください。 また経済的な理由で一度に適法化させるのが無理な場合は、弱点を補強したり、建物のバランスを検討しなおしたりする事も有効です。 ですので既存不適格マンションにお住いの場合は建物の壁を塗り替えて綺麗でピカピカな状態にする事よりも安全性を高める方向を優先して予算を配分していただく事が大切です。