工事監理と工事管理の違い

「現場での役割で一級建築士は現場監督さんと何が違うのですか?」という質問をいただく事がございます。これは非常に重要なので簡単にご説明いたします。

工事監理 VS 工事管理

現場監督工事管理
建築士工事監理
両者共に「こうじかんり」と読み方は同じなのに文字が違いますが、
実はその意味は大きく違います。

工事管理

CONSTRUCTION MANAGEMENT <工事の管理>
工事を実行する事 を示します。

実行者
原則として現場代理人(現場監督)が行います。

主たる目的
安全に工事を行い、会社に利益をもたらし、建築主を満足させる事。

具体的な内容
◆工程の管理(工期の調整)
◆職人さん・材料・重機の手配
◆職人さんへの指示
◆現場の安全確保と労基他法令の順守
◆工事予算の調整
◆監督検査(主として仕上がり確認)
◆打合わせ
◆工事記録の作成
などを行いながら工事を実行するお仕事です。

現場訪問頻度
常駐や巡回が選べますが支払う金額が変わります。
常駐は文字通り工事期間中は朝から晩まで工事が行われている間常駐していただきます。この場合、現場監督さんの1か月の給料相当をお支払いいただく事になります。
一方、巡回は何件かの現場を同時に管理していただく方法で、巡回して来られるので常に居られるわけではありません。 巡回の1か月の報酬レートは会社により様々ですが駐在に比べて安くなります。

工事監理

QUALITY CONTROL and INSPECTION <品質管理と検査>
工事の品質検査実施と問題の是正指導をすることです。

実行者
一定の規模以上の工事では法的に建築士だけが行う事ができます。(建築士法)
建築士の免許を持たない人が行うと違法行為になります。
※設計事務所登録しているから大丈夫という事ではありません。
 現場で工事監理を行う人(コンサルタント)本人が免許を持っていないと違法になります。

主たる目的
建築主に代わり工事の実施内容や品質を検査で確認問題があれば是正の指示を行う事。

具体的な内容
◆各工事が設計通りに正しく行われているか照合
◆指定した材料が使われているか確認
◆品質が想定レベルに達しているか確認・検査
◆手抜き工事はないかの確認
◆監理者検査(主として品質確認)
<以上の項目で問題があれば是正を指示>
◆打合わせ
◆施主への報告
を行うお仕事です。

現場訪問頻度
建築士は駐在は行わず、必要な時に検査に訪れて要所要所で現場に問題が出ていないかを確認及び検査します。また予防の目的で問題が出そうな個所を事前に監督に伝えたり、ときに予定にない訪問を行い施工中の様子を確認・抜き打ち検査することもあります。通常、小さな現場なら重要工程を除き週に1回の訪問で済みますが、マンションなど大きな建物の場合で、職人さんが沢山同時に仕事される場合は1週間に完了する工事量が膨大になる事があるので、その場合は複数人で確認するか、又は週に数回訪れて確認します。

工事監理が大切な理由

責任施工は品質が悪くても分からない、つまり見た目だけで勝負

マンションの大規模修繕では責任施工という名のもとに監理者を雇わずすべて施工業者さんにお任せするケースがありますが、法的には一定以上の規模の工事は監理者を置くことが義務づけられています。でも責任施工の場合は下請けのような名ばかりの監理者か、社員の方が兼任しておられる事が多く施工会社に不利になるような指摘は一切せず「すべて合格扱い」になるので事実上「監理者なし状態」になっています。 この場合は建築主(マンションの大規模修繕の場合は区分所有者の皆様)は品質管理されていない製品を購入しているのと同じになりますので、工事の品質が悪くてもそれを知る方法すらないことになります。このような場合は、建築主が工事完成時の見た目だけで判断することになりますので、見た目が良ければ問題ないと判断されてしまうのが殆どで、下地の補修など見えない部分が手抜きでも分かりません。 この場合は数年後に塗装がはがれてきたり、前と同じ場所に同じ形のヒビが出現したりと本来の品質が維持できない事があるので好ましくありませんので施工業者とは別に監理者を雇う事をお勧めいたします。 

大規模修繕工事が未経験の方も新築マンション購入から2年目あたりで実施されるデベロッパーによるサービス修繕を経験されると分かると思います。建築士の監理者が居ないとあの様な感じになるという事です。 
ちなみに業界の内情をよくご存じの方が区分所有者さんの中に居られる場合は、2年目あたりで実施されるデベロッパーさんのアフターサービス終了時の工事の前に瑕疵を全て見つけ出す為に建築士を雇われます。この2年目以降のアフターサービス終了時の工事でしっかりと(手抜きさせないで)直させることで(12年目付近で行われる)1回目の大規模修繕の時に工事を減らす事ができるので、結果として大規模修繕の費用を安くする事が可能になるのです。

建築士が現場監理する意味<品質管理と問題の予防>

更に、施工業者さんに全てお任せしてしまうと手抜き工事や図面の読み違いなど故意や過失を問わず問題が出てしまいますので、私達建築士が工事監理する事で1つ1つの問題を見つけては是正の指示を出したり、「問題が出るだろうな」とか「ここは直前に口頭で説明しておかないと心配だな」という点などを事前に注意喚起しておくことでミスを予防したりします。また工程が込み合ったり工事が終盤になると現場監督さんも疲労困憊されることが多くミスが出やすくなりますので、そのような時には少しでも現場管理がしやすいように私たちがサポートすることもあります。また、大きな工事に追われて小さな工事を忘れておられそうな場合は、やんわりと「〇〇はそろそろ始まりますか?」と聞いたりして思い出していただく事もございます。さもないと工期の後半に思い出して突貫工事で済まされることになります。 現場監督さんからするとお客様の目に見える場所はクレームが出やすいので重視されますが、目に触れない場所は私達建築士が問題の有無を確認しないと誰も注意して見てないことになりますのでそういったポイントは特に注意して確認したりするのも(地味ですが)私たち建築士の重要なお仕事になります。 

最後に

お金を少しでも安くしようと責任施工を選ばれる管理組合様も多いと聞きますが、私達一級建築士は現場の監理だけではなく建物調査や工事内容の検討の段階でも専門的なアドバイスをしたり無駄な工事を除外しますので1円たりとも無駄にできないとお考えであれば、是非一級建築士をお選びください。また個々の事情を踏まえず他のマンションと同じような工事を組んでしまう事で毎回同じことの繰り返しになるという問題がございますが、私共は対応策を講じたご提案も致しますし、次回から工事の量を減らしたり、より安価な工事に切り替えられる方法のご提案も致します。 このあたりになると管理会社さんやマンション管理士さんには真似ができない専門家だからこそできるサポートになります。 こうした事から(本来であれば浪費されていたであろう無駄を除外したりして)私たちの報酬金額よりも多くのお金をお手元に残す事や 品質管理により(同じ工事代金でも)中身がより高品質な施工結果を実現するお手伝いも致します。
後半は一級建築士の宣伝やアピールという形になりましたが、実はこれまで私達は宣伝やアピールを全くして来なかった事を反省しております。 マンションの大規模修繕工事に関する問題がここまで多く出ているのは、私達専門家が介入を避けてきたことが最大の要因だと最近自覚することが幾つもございました。 その反省も踏まえて、今後は、より意欲的にマンション分野でも私達専門家の能力というものを宣伝したりアピールする場を増やしていこうと考えております。 このブログはそのきっかけを作る1つの手段として、今後もお読みいただく皆様に有益な情報を提供するように努めてまいります。