今回は上のイメージにある3タイプのマンション(左から タワーマンション、団地マンション、大規模マンション)で、基本的な条件を全て同じにした場合、どれが最も修繕費が高くなるかをお考えください。
前回よりも情報量が多くて少し難しく感じる方も居られると思いますが、大丈夫です。重要な事は今後も繰り返し書くようにしますので、暇な時に時々お読みいただくだけで必要な知識が付くようになります。
問題
まずは条件をご覧ください。
基本的には3タイプ共に同じ規模になるように考えました。
項目 | A 大規模マンション | B タワーマンション | C 団地マンション |
---|---|---|---|
特徴 | 横方向に長い | 縦方向に長い | 縦横は短いけど 2棟に分かれている |
階高/高さ | 11階建/35m | 21階建/65m | 11階建/35m |
X・Y長さ | 84m x 30m | 42m x 30m | 42m x 30m (1棟当たり) |
建物棟数 | 1棟 | 1棟 | 2棟 |
総住戸数 | 160戸 | 160戸 | 160戸 |
専有部分延べ面積 | 15480㎡ | 15480㎡ | 15480㎡ |
バルコニー延べ面積 | 2520㎡ | 2520㎡ | 2520㎡ |
エレベータ合計台数 ※1 | 2台 | 2台 | 2台 |
※共通事項
3タイプ共に1階は住戸なしで、管理人室とエントランスホールと各種サポートルーム(機械室や電気室等)のみです。面積やグレードは同じと仮定ます。よって団地タイプも条件を合わせる目的の為、今回は片方は何もないという事にしておいてください。
※1 この設定ではタワーマンションだけエレベータの揚程が倍の長さとなり部分更新でも完全取替えでもコストに影響しますが、この条件をマッチさせようとすると不自然な設定になるのでこのままに決めました。今回はエレベータに関するコスト差は無視してください。この件は非常に専門的になりますので今回は割愛し今後機会があれば別の記事で詳しくご説明します。
このように殆どの条件を同じとした場合、
最も修繕維持費がお高いのはどのマンションでしょうか?
施工面積・直接仮設・工期の3つについて比べて総合的に最もコスト高のものをお答えください。
※直接仮設とは現場で工事をする為に一時的に仮設するものの事ですが、最も大きなコスト要因として、本件では特に組み足場・ゴンドラ・昇降式足場の事とお考えください。
以下に参考のために作成した3Dイメージと基準階平面図を添付しておきますのでご覧ください。
細かな部分は無視してください、あくまで3タイプ共に規模が同じであることをご確認いただく為のものです。
解説と答え
規模や諸条件が同じ場合、何が金額の差となるのか?をお考えいただく事が今回の目的です。
ここでは大きな条件のみでシンプルにご判断いただけるようにご説明します。
ポイントは3つです。
施工面積、仮設コスト、工期。
施工面積の比較
分かりやすいようにサイコロで説明します。
3タイプをそれぞれ2つのサイコロで示すと以下のようになります。
ここでサイコロの隠れた面に注目してください。
A 大規模マンション
2つのサイコロ共に裏は地面に接していて計2面隠れています。
更に2つがくっついているので計2面隠れています。
つまり、サイコロ1つで6面なので
ここではサイコロ2つ分の面、計12面のうち計4面が隠れています。
隠れていない面が施工対象なのでここでは8面が施工対象です。
内訳は屋上が2面、壁が6面です。
B タワーマンション
まず地面に接している面が1面隠れています。
縦に2つ並んでいますので、サイコロが上下に接している2面が隠れています。
合計3面が隠れていますので 12 - 3 = 9面が施工対象です。
内訳は屋上が1面、壁が8面です。
C 団地マンション
2つのサイコロが離れていますので隠れているのは地面に接している計2面だけです。
12 - 2 = 10面が施工対象です。
内訳は屋上が2面、壁が8面です。
項目 | A 大規模マンション | B タワーマンション | C 団地マンション |
---|---|---|---|
施工対象面数 | 8 | 9 | 10 |
屋上の面数 | 2 | 1 | 2 |
外壁の面数 | 6 | 8 | 8 |
このように単純化したモデルからお分かりいただけるように
施工面積は C 団地マンション が最も多くなり不利になります。
でも、これはまだ答えではありません。
仮設コストの比較
今度は直接仮設と呼ばれる主に足場などのコストに関して考えます。
実は大規模修繕が高くなる理由の1つと言われているのがコレですので工事を計画するうえで無視できません。
少しでも比率を下げようと沢山の工事を組み込んでも2割前後、工事種が少ないと4割を超える金額がこの足場の仮設費用に消えていきます。
そうです、消えるんです。
塗装やタイルは工事完了後もその場に残りますが、仮設は工事の間だけ組み上げる工事の為の舞台みたいなもので工事が終わればシンデレラの0時以降状態で消えてしまいます。 しかも(消えるくせに)上記のように多くのケースで2割から4割という大きな割合で工事費に食い込んできますので、ここが大きくなるのは非常に困るのです。
足場は外だけではなく階段や吹抜けなど内部にも必要ですが、ここでは要点をご理解いただく為に簡略化して、まず、外壁に組む足場だけで話します。(その他はほぼ同じになるように設定しています)
まずは、上で算出した外壁の面数と高さの条件の表をもう一度呼び出します。
項目 | A 大規模マンション | B タワーマンション | C 団地マンション |
---|---|---|---|
外壁の面数 | 6 | 8 | 8 |
項目 | A 大規模マンション | B タワーマンション | C 団地マンション |
---|---|---|---|
階高/高さ | 11階建/35m | 21階建/65m | 11階建/35m |
ここでも大規模マンションは足場が必要な外壁の面積が他より少なくて有利と分かります。
問題は数字では同じ タワーマンション と 団地マンション です。
まず、団地マンションは 45m以下に全ての壁があるので完全に組み足場で工事が出来ます。
しかし45mを超える外壁があるタワーマンションの場合、現時点のルールでは45mを超える部分で組み足場が使えない為、ゴンドラや昇降式足場を使わなくてはなりません。
この点では タワーマンション が最も不利な条件となります。
実はこの部分にも足場が必要になりますので現実の見積りではここも含んで計算します。
でも今回は大体同じくらいになるように作りましたので条件が同じという事で省略させていただきます。
※平面図だけ見ると 大規模マンションのボイドが大きく見えますが、タワーマンションはこれが2倍の高さの21階まで続きますし、団地マンションは2棟あるのでダブルとなり結局3つの施工面積差は殆ど無いという設定にしています。更に厳密にいえば本例のタワーマンションはここでも45m超えが出るのですが、ここでは同じとしておきます。このレベルまで細かくなると、最終的には各現場の状況や工事の内容で何がベストかという事が変わるので、個々のケースでの判断となりますので大きな条件だけでどちらか決めるのは難しいです。
工期の比較
最後に工事の工期です。 これは長くなればなるほどコストが高くなるのですが、ここまでにご紹介してきた中で既に工期に関連する大きな問題要因が登場しています。
それはゴンドラや昇降式足場です。
これは45mを超える場合の選択肢として度々登場しますが45m以下でも使用されることがあり、時に効率よく組めて、工事が単純な場合や上部のみ足場が必要な場合や、車の通行などの為に地上部を完全に開けておく必要がある場合などに採用しますが、大規模修繕のような各種工事が混合されてくる複合の工事では最悪の選択肢となります。
何が問題かというと、停止している場所でしか作業ができない 事です。
つまり2つ上の階にミスがあるのを下から発見した場合でも、他の作業員の方の作業中は昇降させられないので場合によっては直さず工程通りに作業して後から補修することになります。 組み足場なら何時でも手が空いた時や気が付いた時に、そこまで行って直せますが、それが出来ないのです。 更に別の場所の作業が終わり手が空いた作業員が次の場所を始めるという事も(その場所に足場床が無い為)出来ません。 作業が単純な場合は順に処理すれば完了するのでこのことは問題になりませんが大規模修繕のように工程が込み入る場合では組み足場に比べて工期が異常に長くなるなどの問題が起きやすくなります。
他にも天候(特に風)に左右されやすく作業できない日や時間帯が発生しがちです。
結果として床を幾重にも地上から組み上げていく足場に比べると、停止した場所しか作業床が無いというゴンドラや昇降式足場はどうしても効率が悪くて工期が長くなります。
総合評価
3つを総合的に評価すると
今回のように規模などがほぼ同じなら、どうしてもタワーマンションの修繕コストが最も高くなります。
1番の問題は45mを超える部分の作業性の悪さと工期の長期化ですが、ご覧いただきましたようにどのケースでも好条件にはならないです。
最近専門誌を賑わせていた埼玉県の55階建のタワーマンションの場合は、その殆どが昇降式足場やゴンドラにより作業されるという条件の為、2年という長い工期となり、現時点で既に通常のマンションの2倍の修繕費がかかる事が判明したと発表されました。
もちろんここまで高さがある場合は特別です。
タワーマンションの足場の問題は45mを超える部分が全体の何割あるのか?という点に注目してお考えいただければわかりやすいと思います。
100mを超える場合はゴンドラ等に頼る範囲が全体の半分以上なのでとても高価になるでしょうし、本記事の例のように20階程度で60m程度なら45mまでは組み足場とすることでゴンドラ等に頼るのは全体の4分の1と少なくなります。
2番目にコストがかかるのは 団地マンションです。
施工面積が大きくなることだけではなく、1つに比べて2つの場合は作業を2回行わないといけない工程が出てきますので1回で一気に済ませられる場合よりも工期が延びます。(特に廊下側の作業) 勿論、大規模マンション1棟の工事でも外壁などは工区という小さな範囲に分断して行うので文字通りに一気に工事する事はできませんが、それでも淡々と工程を流れ作業でこなせる場合(1棟)と仕切り直す場合(2棟以上)はやはり大きな差が出ます。
また本記事では様々な可能性が考えられるであろう詳細条件までは言及していませんが、独立した2棟の場合は機械室や電気室も2倍あることになりますので設備機器が1台で済む場合も全てダブルとなるのでこうしたコストが30年を超えた頃の工事見積もりで大きな差となる懸念もございます。
よって最も修繕のコストパフォーマンスが高いのは大規模マンション となります。 高さが45m以下で1棟である場合はタイプという点では非常に工事では有利になります。 ただし、デザインによっては効率が一気に悪くなるものもありますのであくまで3つのタイプの中で最も有利という事です。
という事で
最も修繕維持費が高いのは
B タワーマンション でした。
最後に
ここまでお読みいただければお分かりと思いますが、同じ規模でも条件が1つ変わればコストが変化します。時にその差はとても大きくなります。
そして今回の3つの例は、あえて専有面積を同じになるように作りましたので当然、修繕費の積立金のレート設定が同じなら貯まる積立金が同じになりますが、実際には工事金額で大きな差が出てしまうので資金不足になる管理組合さんも出てくるのが分かると思います。(国土交通省のガイドラインでもタワーは大規模より少し高くしていますが最近増えている超高層タワーでは全く足りないという結果になっています)
つまり国土交通省のガイドラインはあくまで最低限の金額を大きく下回っていないか?を確認するためのものであり、超えていれば安心できるという保証をするものではないという事です。そのマンションに適した金額かどうかは個々のマンションの条件に合わせて適切に決めなくては足りなくなるという事です。
現在ゼネコンは史上最高益を計上し、遂に売り上げでバブル超えを果たしたと報道されていますが、マンション業界は相変わらずの過当競争に晒されており、新築も修繕も施工価格は既に想像を絶するレベルまで低価格化がすすめられ、現実の施工価格は異常なほど安くなっています。(マンションの販売価格はここまで上がってきているのに・・・) 言い換えれば儲かっているのはデベロッパーさんやゼネコン(元受け)だけで下請け各社は厳しい中でやりくりしておられます。 それだけに年々品質の悪い施工が増えてきていますが、要点を理解して良否を見極められ、品質さえ設計通りに維持できれば本当に良い買い物ができるとも言えます。
巨大な施工面積だから実現する効率や低価格ですが、下地・中塗り・仕上げという3工程の塗装で㎡あたり千円台前半というのは最初見た時信じられませんでした。 もちろんそれを実現するために現場で行われている努力は頭の下がるものがあります。
工事の話になるとすぐに値段の事だけに終始してしまい中身や品質を確認すらしない方も居られますが、本当に良い品質を手にする為には、求めておられる品質や耐久性とそれに見合う価格や工期を確保できる業界となる事が、今後のマンション業界には必要なのかもしれません。 このまま無茶苦茶な過当競争を繰り返していると 食品偽装のミートホープ事件に似たことが起きるだろうと思います。 その為にも安いだけの手抜き工事に管理組合さんが殺到されないように、コスト意識と共に品質の良し悪しを見極める目や知識を養っていただきたいと思います。本ブログでは管理組合さんの理解力や判断力の強化をサポートできるように無理なく知識が付くような内容で記事を書いていこうと思います。