大規模修繕に適した季節 春夏秋冬
大規模修繕の工期が何年もかかる規模のマンションの場合は季節を選べませんが、工期が数か月の規模のマンションに関しては人気の季節というものが存在します。
本記事では私が普段から気にしている季節ごとの特徴や問題点を工事の品質というポイントに注目してご説明させていただきます。
春
管理組合の人気ではナンバーワンではありませんが、私のお勧めは春です。
春は学校や会社の新しいスタートの時期で忙しい為にあまり好まれないと聞きますが工事を行う上では比較的条件が良い時期です。
例えば温度は幅があるものの最低気温・最高気温共に過酷な範囲には至りませんので高い品質で工事が行えます。
特に湿式の工事(下地補修・塗装・タイル貼替)にとって良いコンディションなので工事完了後も長い間安心してご利用いただける品質を確保しやすいのです。
大規模修繕の本来の目的は経年劣化でダメージを受けた材料や部材を安心して長く使えるものに置き替える事ですので品質重視の観点なら春が最も適していると思います。
冬
逆に私が選ぶワーストの季節は冬です。
大規模修繕の冬施工は品質管理が最も難しくケアレスミスで簡単に低品質になります。
冬は各地で氷点下になる事があると思いますが、湿式の工事(下地補修・塗装・タイル貼替)で完全硬化前に(水分を多く含む状態で)氷点下を経験させると凍害により品質の低下が起きやすくなります。そうなれば本来10年以上の耐久性があるはずの工事項目も数年で問題が出ることがあります。 もちろん湿式の工事でも天気予報を確認し夜間低温になるタイミングを避けて工事したり硬化不良が出ないように保温養生するか、または低温でも施工可能な材料を使用すれば良いのですが、なかなかそこまでコストや工期をかけられないのがマンションの修繕工事で、特に工期が厳しいので温度が高くなるのを待つこともできず、ギリギリの条件なら施工を実施することもございます。(勿論、その場合、私は追加の検査をして問題の有無を確認します。)
実際、私が過去に工事監理した大規模修繕でも冬に行われたウレタン防水塗装で検査の結果、凍害の被害が見つかりました。施工時の温度は全く問題ありませんでしたがその日の夜間に急激な放射冷却が起きて夜中には氷点下になったのが原因でした。検査の結果、想定している性能や耐久性が出ていないと判明したので凍害が出ている個所は全て現場監督さんにお願いして施工をやり直していただく事になりました。 マンションの大規模修繕の場合、冬施工ではこうした問題が誰にも気づかれることなく放置されることが多くなりますのでご注意ください。
またきちんと一級建築士が工事監理しているはずのマンションの新築工事でも冬は問題が多いようです。施工業者の依頼で建物の施工不良を調査している方のお話ではタイルの施工不良が大量に見つかるマンションは多くの場合、冬場にタイルを施工していると教えていただいたことがあります。これも温度管理や養生をきちんと行うか、モルタルではなく接着剤使用なら問題が出ない場合があったり、他の湿式工事でもゼロ度付近で施工可能としている材料があったりしますので 冬施工が必ずしも欠陥が出るという事ではありませんが、温度管理や養生などの配慮が正しくできない現場監督さんや顔を出すだけで検査を行わない設計事務所(工事監理者)の場合は品質が想定したものよりも落ちやすいので短寿命となる事があります。特にタイル工事が施工不良の場合、区分所有者様の将来の負担が大きくなりますので大きな問題だと私は考えております。 1回目の大規模修繕でタイルの施工不良が大量に見つかった場合は元施工で、きちんと工事管理と工事監理がされていたか?調査ご確認されたほうが良いかもしれません。そのようなケースでは問題がタイルだけとは限りませんので。
夏
また夏場は逆に高温になり過ぎると急激な乾燥により品質低下が起きたり、塗装工事などの施工性が著しく悪くなることがございますが、この件に関しては対応策がそこそこ考案されており冬のように品質管理が困難という流れにはなりにくいです。つまりベストとは言いにくいですが、正しく工事管理と工事監理すれば問題はございません。
住民の方々からすれば、夏場はクーラーが使えない状態で窓を閉め切ったまま工事が続くと非常に苦痛なので大規模修繕の時期としては最も不人気だと聞きました。 そんな事もあり施工業者さんによっては3%くらいなら値引きしてでも仕事を受けたいというところもあったりします。 しかし夏は台風が良く来ますのでその都度足場のシートを全て閉じて強風対策したりするので余計な予算がかかったりタイミングが悪いと工期が大幅に延びたりする事や、窓を閉め切って暑さに耐えないといけない事なども考慮した場合、3%ではあまり魅力的なオファーではないのでは?とも思いましたが、いかがでしょうか。
秋
最後に秋ですが、管理組合が選ぶ大規模修繕の時期としての一番人気はダントツで圧倒的に秋だそうです。 夏の暑さが和らいだタイミングでの工事を希望される管理組合が特に多いようで現場では職人不足が多発するなどの理由により工事代金も少し割高になるというケースもあるようです。
でも、私が皆様の立場なら秋は選びません。
【理由その1】天候不順で工期が延びやすい
秋は「秋晴れ」もありますが、一方で「秋の長雨」もありますし、夏が終わって間もない時期なら未だ台風が来ることもあります。更には徐々に低温になるので乾きも遅くなるなど、やはり予定外の工期の延び(工事の遅れ)が最も出やすいからです。 工期が延びると工事費用が増えるだけではなく、それだけ長い期間不便な生活を強いられるのであまり好ましくないと考えます。
【理由その2】下手すれば冬に突入
更に長引いて冬に入れば上記のような冬特有の品質管理問題も出やすいのが懸念されます。
更に、年末年始にかかると「お正月」があるのでマンションによっては「お正月くらいは現場の養生を撤去してすっきりとさせてほしい」という要望が出ることもあり、そのコスト等、色々と対応すべきことも多いのでマンションの規模やこの時期の活動内容によっては慎重に選ばれたほうが良いと思います。
勿論、そのような懸念が一切気にならないという場合は居住者の皆様にとって確かに秋は良い条件なのだと思います。
結論
私は一級建築士ですので施工品質(ここでは主として耐久性)を高く保つ事を優先して考える立場です。
つまり大規模修繕の品質管理を行う立場、工事監理を行う立場からの意見として書かせていただきましたが、品質という見えないものを大切にお考えの方はこのような側面があることもご理解の上検討いただければ幸いです。
秋が一番人気で工事が集中していると聞く度に不安を感じておりましたのでこの記事を書かせていただきました。また冬に関しましては特に品質の低下の件を強調して書きました。なぜなら通常の工事なら必ず建築士が工事監理を行いますので特に問題ないですが、マンションの大規模修繕に限ってはコンサルタントが一級建築士ではない無資格の方の場合もあるので、無資格者の場合は法的に工事監理をすることが許されていませんし、無理に私達を真似ても知識面や技術面でも品質管理や欠陥の有無の判断ができないので、コンプライアンスを順守される場合は完成した工事を見た目だけで判断するしかない為、見えない下地の処理や内部の事は施工業者さんを100%信じてお任せすることになります。ですので無資格の方をコンサルタントとして起用される際やコンサルタントは使わず責任施工で施工業者さんに完全にお任せされる場合、(品質を考えれば)せめて冬は避けていただくほうが無難だと考えており、これが本記事で最もお伝えしたい部分でもあります。
勿論、大規模修繕コンサルタントに一級建築士を起用していただければ工事監理を行いますので冬であっても必要な対応は行わせていただきます。
補足
本記事で「工事監理」という言葉が出てきますが、これは工事の品質を高く維持するのになくてはならないものです。今後工事を依頼する予定の全ての方に理解していただきたい重要事項です。詳しい解説は以下のリンクをお読みください。